『恋と罰』刊行記念対談
原作・松居大悟
×漫画・オオイシヒロト
那須千里=文 野口佳那子=撮影
先頃『バイプレイヤーズ』でも話題をさらった映画監督・松居大悟と、ネット発小説の大ヒットコミカライズ『奴隷区』の漫画家・オオイシヒロトが組んだ長編漫画『恋と罰』。短編「ゲームするしかない君へ」(コミックゼノン2012年1月号)以来の異色タッグが、「映画」と「コミック」の境界を突き破ったぶっ飛び片想いラブロマンスを生み出した。本作構想から4年近い歳月を駆け抜けた2人にその思いを訊いた。
松居 オオイシさんとの共作は、監督がオオイシさんで、僕は映画における脚本を担当するということに近い気がします。僕は昔漫画家になりたかったっていうのもあって、映像ではできない漫画ならではの表現って何だろうという会話を二人でずっとしていたんですけど、今回はメインのキャラクター以外をみんなシルエットとして描くというアイデアがオオイシさんから出てきて。それすげぇ……! と。
オオイシ 普通の漫画とは何か違うぞと思ってもらえるようなインパクトが欲しかったんですよね。
松居 「片思いの向こう側」を描くというテーマがあって、それぞれが盲目になりすぎる話だから、まさにぴったりな手法だった。
オオイシ たとえばAにはBの姿が具体的に見えているけど、BからはAがシルエットにしか見えていないとか、そういうのがこの作品の趣旨にも合っているかなと。
松居 僕はいつも一つの感情では説明できないものを伝えたいなと思っているんですけど、オオイシさんの描く人の表情は笑いとか哀しみとかいろんなものを含ませながら顔に投影しているから、原稿を受け取るのが楽しみなんですよね。
――――― とはいえ絵柄そのものは読みやすいですよね。
オオイシ 最近になってだいぶ変わったところですね。ここぞというところの表情では熱い感情をぶつけつつ、それ以外の画面をいかに見やすく作るかということは、ここ数年の間に学んだところなんです。
松居 オオイシさんが描くなら、多少キツい展開にしても、読者が引くことはないという信頼があるんですよね。どこかにちゃんと品があるので、話も思い切り振り切ろうと思えたし。
オオイシ 松居さんの原作から思い浮かぶ画はやっぱり実写映画でイメージしやすいものになっているんですよ。俺も映画っぽい見せ方は好きなので、それができそうなところは敢えて連続したコマの割り方をしたり。
松居 うん、うん、百合子の回想シーンとか。僕は原作ではああいうふうには書いていなかったからすごいと思って。
――――― 小さい頃におばあちゃんが喜んでくれたことを、大きくなって男性相手にやったら拒絶されてしまう。同じ構図でそれが描かれているとショックも大きかったです。
オオイシ あの回想シーンは映画的な描写の流れを意識しつつ、子供時代の百合子と成長した百合子の表情やアングルは同じまま、時間だけが経っていく描き方をしてみました。
――――― 最終的な出口は漫画ですけど、映画との融合みたいなところもあるんですね。『恋と罰』の登場人物は、どんなにみっともなくても外へ外へ向かっていきます。
松居 他人に迷惑をかけまくってる(笑)。自分のメンタルが影響しているかもしれませんね。以前は自分自身がどうにもなっていない状況で、そんな自分を肯定しなきゃいけなかった。でも最近はとにかくいろんな人を巻き込んでいいものを作ろうというモードだからかも。
――――― ラストに向かう流れは、ストーリーラインは複雑になるけれど、細かい情報の描写は逆に削がれているような。
オオイシ そこはジェットコースターのイメージだったんですよね。序盤はゆっくり昇っていくんですけど、百合子が順の部屋に入るあたりから下りで、落ちていく過程だけをひたすら淡々と描いていこうと。逆に一つ一つ説明していると立ち止まってしまいそうだったんですよ、いろんな疑問に。あのへんは理屈じゃなくて感情で動いているので、説明しようとしてもできなかったと思うんです。
松居 百合子も冷静ではなかっただろうし。
オオイシ 冷静に百合子の行動を考えたときに、人としてアリかナシかでいったら、ナシだと思うんですけどね(笑)。いかにそれを気づかせないかが勝負でした。あれは松居さんだからこその結末だと思いますね。
松居 僕はあのラストはすごいハッピーエンドだなと思っていて。傍から見たらそうでなくても、周りにどう思われようとあの瞬間のあの二人にとってはハッピーエンドになっている。それは今回のテーマの一つでもあったと思うんです。
オオイシ 俺はもしまた松居さんとやるんだったら、童貞なんだけど恋愛映画を撮るのがめちゃくちゃ上手い映画監督の話を描いてみたい! 自分が本来持っている性質と作っている映画の間にはあまりにもギャップがあるのに、その作品がすごく認められてしまうという、複雑なことで悩むような……(笑)。
松居 それ僕のことみたいで恥ずかしいな……たしかに自分ではそういう映画は絶対に撮れないし、撮らないけど、オオイシさんとだったらぜひ!
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『 恋と罰 』 上
原作: 松居大悟
漫画: オオイシヒロト
発売: 2017年5月18日
仕様: A5、ソフトカバー
価格: 1,018円(本体926円+税)
ISBN: 978-4-7783-2285-4
*全国書店&通販サイトで好評発売中
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『 恋と罰 』 下
原作: 松居大悟
漫画: オオイシヒロト
発売: 2017年5月18日
仕様: A5、ソフトカバー
価格: 1,222円(本体1,111円+税)
ISBN: 978-4-7783-2286-1
*全国書店&通販サイトで好評発売中
プロフィール
原作:松居大悟(まつい・だいご)
1985年生まれ、映画監督、劇団ゴジゲン主宰。福岡県出身。2012年、商業映画の初監督作『アフロ田中』が公開。2015年『ワンダフルワールドエンド』でベルリン国際映画祭出品、『私たちのハァハァ』でゆうばり国際ファンタスティック映画祭2冠受賞。ミュージックビデオ制作やコラム連載など活動は多岐に渡る。最新監督作『アズミ・ハルコは行方不明』(第29回東京国際映画祭コンペティション部門出品)が2016年12月3日に公開。
漫画:オオイシヒロト
1979年生まれ、漫画家。大阪府出身。おもな作品に、『包帯クラブ』(原作:天童荒太)、『ぼくたちと駐在さんの700日戦争』(原作:ママチャリ)、『スナーク狩り』(原作:宮部みゆき)、『奴隷区 僕と23人の奴隷』(原作:岡田伸一)、『0恋~ゼロコイ/交わりたい僕等~』(原作:Q)、『ごくべん』、等多数。「コミックゼノン」2012年1月号にて短編『ゲームするしかない君へ』を原作・松居大悟との初タッグで発表している。
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