著者からのコメント

4週間も日本に滞在したのは、20年前に英国に渡って以来、初めての経験でした。
わたしは頻繁に母国に帰るタイプの人間ではなく、8年間まったく足を踏み入れなかった時期もあります。そんな人間が20年ぶりに1カ月も日本で過ごすことになり、そこで得た最大の収穫は、草の根の活動家たちとの出会いでした。母国ではリベラルや左派の建て直しの必要性が盛んに語られているようです。そんないまだからこそ、例えば本書に出てくる山谷の「あうん」の中村光男さんの言葉をぜひ読んで欲しい。
知るべき人びと、ほんとうにクールな人びとは、ネットの喧騒の外側にいます。
そして彼らは、英国を地べたから支える屋台骨であるグラスルーツの活動家たちによく似ていたのです。

「THIS IS JAPAN」著者 ブレイディみかこ

「THIS IS JAPAN」著者 ブレイディみかこ

1965年、福岡県福岡市生まれ。1996年から英国ブライトン在住。保育士、ライター。 著書に『花の命はノー・フューチャー』(碧天舎)、ele-king連載中の同名コラムから生まれた『アナキズム・イン・ザ・UK ――壊れた英国とパンク保育士奮闘記』(Pヴァイン)、『ザ・レフト─UK左翼セレブ列伝 』(Pヴァイン)、『ヨーロッパ・コーリング――地べたからのポリティカル・レポート』(岩波書店)がある。

The Brady Blog Yahoo! ニュース個人 ブレイディみかこ

本書へのコメント Comments

  • 日本人著者がイギリス労働者階級のめがねをかけて見た、
    日本の貧困、格差、子育て。
    たんなる比較文化論にとどまらない
    日英への愛憎アンビヴァレンスが読ませる。
    保守革命に先んじた英国での、
    ネオリベ対抗運動が参考になるかも。

    上野千鶴子さん(社会学者)

  • バケツの底が抜け、もうどこが「地べた」かよくわからないこの社会で、
    私たちがこの場所を少しでも生きやすくするために必要なものは何か――
    労働、経済、保育、貧困、人権、
    ブレイディみかこさんの視点は日本の様々な現場を見つめ、
    草の根から社会を変えるために必要なものを模索していく。
    「あうん」の中村さんの話、自主保育の話に出てくるカトウさんの話が面白かった。
    もちろん簡単に結論が出るわけではない。
    しかし、そのためのヒントが随所に垣間見える。
    長い道のりだが、一緒に少しづつ歩いて行こうという、みかこさんの力強い意志が感じられた。

    柏木ハルコさん(漫画家)

  • キーワードは
    「反緊縮」と「グラスルーツ」で、
    まさにいま考えてることだった。
    面白くて一気に読んだ。

    強くお勧めします。

    岸政彦さん(社会学者)

  • ショッピングできなきゃ、ひとじゃない。カネがなければ、借りてでも買え。はたらけ、はたらけ、カネ返せ。貧乏人はひとでなし。それしか言わない日本社会。終わっている。
    本書で、ブレイディさんはすべての貧しい人たちに、とてもやさしくこう呼びかけている。
    てめえら、意地をみせろ。日本死ね。
    いい本だ!!

    栗原康さん(政治学者)

  • 「若者たちはもう、本当に絶望していますよ。現状にもう……」「いやでも、絶望したら立ち上がるんじゃないですか?」「だからもう、絶望しきってるんですよね」「だけど、絶望しきればしきるほど立ち上がるんじゃないですか?」(本書p.69)。
    ここにあるのは単に取材によって報告された日本の現状ではない。理論的な問題である。
    人が「立ち上がる」ための条件とは何なのか?
    ブレイディみかこ氏のこの本が示唆しているのは、その条件が何らかの観念と関わっているということである。

    それは「ディグニティ(尊厳)」(p.74)かもしれないし、「人権」(p.206)かもしれない。本書は現代日本のレポートのように見えるが、その中で何度も19世紀末および20世紀初頭の思想家や運動が言及されていることに注意せねばならない。英国女性参政権運動、伊藤野枝、ジャック・ロンドン、ピョートル・クロポトキン、頭山満……。
    このような日本、このようになってしまった日本が必要としている観念がそこにあることを、
    『THIS IS JAPAN』は我々に教えてくれている。

    國分功一郎さん(哲学者)

  • 〔…〕
    最後の10行ぐらいから
    揺さぶられました。

    少なくともぼくにとってはまったく、予想外とも言えるほど、
    素晴らしい終わらせ方です。
    「らしい」し、「希望」と「絶望」が入り混じって、
    訣別と逆らいがたい共感と、
    しかし、なんとも言えないオプティミズムが余韻として残ります。
    とはいえ、何気ない光景描写のなかに
    小さいけれど、したたかな揺さぶりも感じます。
    〔…〕
    どちらの側に付くんじゃない、
    たとえ反論があっても、
    自分の目で見たモノを書くだけ、
    この視点(アティチュード)こそ、
    日本には滅多にないものでしょう。

    野田努さん(『ele-king』チーフエディター)

  • いまや政治的にならない方が難しい時代だ。誰しもが政治や社会について論評しているようにさえ見える。が、その手の書き手で信頼できる人間というのは、この国にほとんどいない。ますます少なくなっていっている。絶望的だ。ブレイディさんは、貧乏人の真っ当な主張を淡々と書く。そしてその貧乏人の真っ当な主張が最もラディカルであることを示す。
    ブレイディさんは、間違いなく信頼できる“筋の通ったレフトの書き手”だ。彼女の活躍に、世の中捨てたもんじゃないと感じているのは僕だけじゃないでしょう。

    二木信さん(音楽ライター)

  • 緊縮政策と資本の横暴に、ついに民衆の反逆が起こり、「中道」が崩壊しつつあるイギリス──かの地にて「地べた」の目線から闘いのリアルを伝えてきた「パンク保育士」が、わが日本の「地べた」に降り立った……。そこにあったのは、イギリスをしのぐ資本の論理と緊縮の蔓延であり、人びとの信じられない犠牲であり、その中で個々人の暮らしを守り抜くグラスルーツの超人的取組みの数々であり、そしてそれがマクロな政治変革へつながらない絶望的な悲しさであった!
    本書からは、コービン=サンダース現象につながる素地が日本にも満ちていると感じる。
    「中道」に手を広げれば支持が広がるのか。著者は、経済を軽視する日本の左派の傾向を批判し、欧州の左翼は「政府は人民のために金を使え。メシ食わせろ」という庶民の叫びを政治に反映させようとすると強調する。参院選、東京都知事選と連敗した今こそ、本書に学ぶことは多いだろう。

    松尾匡さん(経済学者)

  • 読み進むほど、私たちは特殊な国に住んでいるのではないかと思う。それは時に醜く、時に恵まれている。文化の違い、価値観の違いを体験した著者だからこそ書き表せる現在の日本の姿。
    最後の「おとぎの国」のあり方にホロっとさせられた。

    今川絵里さん(八重洲ブックセンター本店4階フロア長)

  • 「ブロークン・ジャパン」
    の単語が胸に突きささる。

    私たちの暮らしは、私たちが子供の頃よりも
    明らかに余裕を失いつつある。
    少しずつ、少しずつ、壊れていきつつある日本。
    この状況を変えるには私たちが声を上げていくしかないのだと、一人の小学生の父親として思った。

    北哲司さん(八重洲ブックセンター本店1階フロア長)

  • 人権に対する考え方についての東西比較、
    “日本では権利と義務がセットとして考えられている。尊厳の根源が「アフォードできること(支払い能力があること)」つまり、義務を払えなければ権利はついてこない、と考える日本人にとって、「どんな人間も尊厳を(神から)与えらえている」という(キリスト教圏の)レトリックはわかりづらい。”
    という記述は大変腑に落ちる。今の日本の様々な人権にまつわる問題(貧困、格差、教育、平和)はこの日本人の考え方が多く影響していることがこのルポを読むとわかる。
    “人権というものは、アフォードする力(日本流人間の尊厳)も、コミュニケ―ト能力(相互扶助スキル)も、すべての力を人間が失ってしまったときにそこにあってわたしたちをまるごと受け入れてくれるものなのだ。”
    とは、イギリスで保育士をしている著者らしい視点だと感じた。
    子どもを育てると「無力なものが差し出さすものなく与えられる権利」の重要性を肌身で感じるのではないか。
    支払える能力でもってこの小国が維持されてきたのだという自負もあるけれど、もう変わらなくてはいけないのかなという時代の、これから、ここからの1冊だと思う。

    池松美智子さん(紀伊國屋書店和書販売促進部)

  • 自分も「中流」の生活をしていると思ってました。ふつーに……。
    「子育て、経済的に無理だよね」という話になるし、「老後、どうすんだよ」って心配が頭から離れないけど、「まあ、とりあえず働けているからなんとかなるかな」と考えないようにして。
    でも、これ普通じゃないんですね。この国、やっぱりこりゃまずいでしょ。
    みかこさん、目を覚ませてくれて、ありがとうございます。

    杉澤敦子さん(ジュンク堂書店難波店)

  • 本来なら反緊縮を全面的に押し出していかなければならない左派の人びとが、政権側以上に緊縮マインドであったりする日本において、これでもかと言うほど反緊縮運動の重要さを訴えるこの書籍は貴重だと思います。
    (特に)市民運動の人びとは繰り返し読んで、「ん? いま、自分緊縮的な考えにハマってないか?」と振り返ってほしいですね。

    日野雅文さん(MARUZEN&ジュンク堂書店梅田店人文書担当)

  • 待機児童ワーストと言われる地区が実は保育の質を保とうとしていること。英国には優れた教育制度があること。与えられるのではなく、自分たちで作り出すことを徹底した当事者運動を続けてきた貧困者や障害者がいること。
    自分の意識がおよんでいないだけで、知るべきことはまだまだあるのだと実感しました。
    著者が実際に足を運んで見聞きしたエピソードの数々に、「あなたはどうする?」と問われているような気がしています。

    I・Sさん(ライター)

  • 貧困に喘ぐ人々の「日本死ね」という怒りを
    「ミクロ」なものとしてそのまま終わらせるのではなく、
    どう「マクロ」な社会的怒りの中に位置づけて行くのか。
    〔…〕
    ブレイディみかこ氏はこの書き込みから
    「マクロ」な少子化や教育問題とはなんなのかという問題を炙り出してみせる。
    その手つきは相変わらずシャープだ。

    踊る猫さん(書評サイト「本が好き!」より)

  • 日本は早急に保育事情を改善しないといけません。
    〔…〕
    絶対に必要な保育事業。もっと現場の声や親になる人の声に耳を傾けて。

    DONAさん(書評サイト「本が好き!」より)

  • 日本の本当の姿をクールに描き出す必読の1冊。
    エピローグで階級社会ではない日本のこれからの可能性を描いた部分では電車の中で涙ぐみそうになりました。

    祐太郎さん(書評サイト「本が好き!」より)

  • 名もなき日本の小市民の一人だって、お金持ちじゃなくったって、もっと生きる権利を主張してもいいんだよ、と少しだけ勇気をもらえた本でした。

    10年イシウエさん(書評サイト「本が好き!」より)

  • 英国保育士から日本の保育や保育園がどのように見られているのか、知ることができ、興味深かった。
    保育だけで、丸ごと1冊書いても面白そうだと思う。

    はなさん(書評サイト「本が好き!」より)

編集担当・取材同行記 Editors diary

取材現場の様子を、同行した編集担当がレポート!!

1. 火災跡地を見る著者と取材協力者
2. 同じ地区にある別の簡易宿泊所
3. 寿町の新しい簡易宿泊所
4. 藤田孝典著『下流老人』
朝日新書、2015年
5. 街宣車でスピーチをおこなう
SEALDsメンバー
6.行進するノラ・ブリゲード
7. キャッチに取り囲まれる
キャバクラユニオン
8. リサイクルショップを案内する
中村光男さん
  • 1月27日(水)

    2015年5月17日、川崎の簡易宿泊所で火災が起き、11名の方が亡くなりました。火災跡地は高層マンションに囲まれたところに、ひっそりとありました。高齢であることを理由にアパートへの入居を断られた生活保護受給者が多数住んでいたそうです。(写真1、2)
    その後、釜ヶ崎山谷とならんで三大寄場といわれる横浜寿町へ取材。寿支援者交流会の高沢幸男さんによれば、簡易宿泊所の老朽化が進み、建て替えが進んでいるそうです。きれいな外壁、エントランスを見るかぎり、普通のワンルームマンションと変わりません。(写真3)
    マンションよりも簡易宿泊所のほうが、収益があがるのだそうです。かつて日雇い労働者だった街も、行き場のない老人の街に変貌しています。
    横浜の中華街のすぐそばにこの街があったことを、私は恥ずかしながら知りませんでした。

    (「第五章 貧困の時代とバケツの蓋」に収録)

  • 2月1日(月)

    保育ジャーナリストの猪熊弘子さんのご協力のもと、世田谷区の5つの保育園を1日で回りました。兄弟もいない一人っ子で、独身男性の私は、生まれて初めて保育園に足を踏み入れました。子供子供子供子供子供! 生涯で子供を一番見た日です。
    取材で驚いたのは、保育士1人の方がみる子供の数です。日本では3歳児の場合、保育士1人でみる子供の数は20人! これにはブレイディさんも「ええっ」と驚きの声を上げていました。英国では保育士1人で3歳児は8人と決まっているそうです。
    日英の保育の問題については、後日おふたりに対談をしていただきましたが、(→atプラスweb「日本の保育はイギリスに学べ!?」)本書でも別の視点から日本の保育問題について掘り下げてもらっています。

    (「第三章 保育園から反緊縮運動をはじめよう」に収録)

  • 2月5日(金)

    『下流老人』がベストセラーになった、藤田孝典さんの事務所にお邪魔し、お話をうかがいました。(写真4)
    「下流老人」という言葉を初めて見たときは驚いたものですが、やはりそれぐらい強い言葉を使わないと、この国を覆っている「一億総中流主義」は打ち破れない、ということでした。
    英国の「ミドルクラス」と日本の「中流」はまったく違う、一歩間違えれば、「下流」になる「ミドルクラス」なんていない、という言葉が印象に残っています。日本人の9割が「中流」と答えるのは、みずからが「下流」であることから目をそらした結果かもしれません。

    (「第二章 経済にデモクラシーを」に収録)

  • 2月14日(日)

    2016年のバレンタインデーは、5月並みの暖かさで記憶に残っている方も多いのではないでしょうか。「安倍政権NO! 0214大行進in渋谷」のデモを取材しました。(写真5)
    2011年以降日本各地でデモがおこなわれましたが、英国在住のブレイディさんから日本のデモはどう見えるのか。ぜひご意見を聞きたいと思い、予定したのでした。(写真6)
    原宿駅で待ち合わせていると、マスク姿のブレイディさんが!!
    バレンタインでにぎわう原宿と行進するデモ、その温度差が気になりました。

    (「第四章 大空に浮かぶクラウド、地にしなるグラスルーツ」に収録)

  • 2月18日(木)

    ブレイディさんが偶然その存在を知った「キャバクラユニオン」の取材に同行。給料からの不正な天引き、賃金の未払いなどが横行する水商売。キャバクラユニオンはキャバクラ嬢のために結成され、多くの賃金を取り戻してきたそうです。経営者が交渉に応じてくれない場合は、「争議」をおこなうこともあり、偶然日程が合い、その模様を取材することができました。 件の店にオープン直後に突撃するも、経営者は不在。居留守を使っている可能性があるとのことで、店の前で抗議活動をおこなったところ、他店のキャッチや黒服に取り囲まれ(こちらは6人)、罵倒されるわ、空き缶を投げつけられるわ、大混乱。すぐに警察官が十数人来て、混乱はおさまりましたが、「取材、無事に終わってくれよ……」と内心願うばかりでした。(写真7)

    (「第一章 列島の労働者たちよ、目覚めよ」に収録)

  • 7月29日(金)

    本書で最も大きく扱われている、企業組合あうんの中村光男さん。2月の取材時は同席できなかったので、校了直前であるにもかかわらず、山谷の事務所にまでうかがいました。 中村さんは山谷の労働者たちと企業組合を立ち上げました。転機になったのはバブル崩壊。それまで日雇い労働者のために活動し、ときには暴力団とも闘ってきた中村さんたちですが、バブル崩壊後は日雇い仕事がまったくなくなり、闘うべき相手もいなくなった。しかし、どうにかして食べていかなくてはいけないと、自分たちでコメをつくり、仕事をつくり、企業組合をつくったそうです。その詳細はぜひブレイディさんのインタビューをお読みください。
    グレーのつなぎの胸元には、「あうん」の刺繍が輝いていました。(写真8)

    (「第四章 大空に浮かぶクラウド、地にしなるグラスルーツ」に収録)

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