【対談】 上野千鶴子(社会学者)×福田和香子、奥田愛基、牛田悦正(SEALDs) 対話
- 2016.07.08
- 対談日:2016年2月5日@太田出版 text:磯部涼 photo:江森康之 editorial:北尾修一
〝SEALDs女子〟というグループ
上野 ちなみに、和香子さんが言っていた運動における性差別的な視線っていうことに関して言うと、集団の外側からの視線と、内側からの視線があると思う。私たち70年安保世代の女性活動家たちがいちばん傷ついたのは、同志の男からメス扱いされるっていうことだった。敵対視してるオヤジたちが、自分たちをどう扱うかっていうのは、だいたい分かってて、ムカつくけど想定内だから対応のしようがあるのよね。だけど、一緒に隊列を組んでる、同志だと思ってるやつらから性差別を受けるっていうのは、やっぱり、女性にとってはいちばん堪えるわね。
ウーマンリブの闘士、田中美津さんが「リブは学生運動の中から十月十日、月満ちて生まれた鬼子だ」っていう名言を吐いてるのね。あの当時の学生運動がなければ、リブは生まれなかったのよ。ドイツもそうだけど、いちばん初期のリブの担い手たちは、失望した元女性活動家たち。誰に失望したかって、同志の男性たちに失望したのね。私自身、自分がフェミニストになった理由を、同志の男性に対する私怨によると思ってる。何月何日、どこのどいつが私に何を言ったか、やったかっていうのが全部思い浮かぶわけよ(笑)。そういった運動の中の性差別的な側面が、運動が男の子の闘いになっていくと際立っていくのね。……だから、そういったことがSEALDsの中でもあったんだろうかということはすごく気になる。
牛田 じゃあ、ここは女性から。
奥田 オレらが「なかった」って言っても何かね……。
福田 ははは(笑)。
牛田 そこは正直なところを言ってほしい。
福田 じゃあ言うね(笑)。自分の気持ちとして、〝SEALDsのメンバーの女の子〟みたいに見られるのは大っ嫌いなのね。ただ、デモの現場とかで、SEALDs内から露骨に「女の子は前に出て」みたいに言われたことはないと思う。それが、最近、LINEのグループで〝SEALDs女子〟っていうグループが出来て、そこに招待されて。で、入って、「何なんだろうな?」と思って見てたら、つくったのは男の子で、そのひとが「最近、テレビとか記者会見とか、男の子ばっかりが目立ってるから、女の子も何か出来るでしょ」みたいなことを言ってて……。
奥田 ちょっと待って。それは説明がざっくりとし過ぎ。
福田 なのかな(笑)。
奥田 もともと、岡野八代さんとか三浦まりさんが「SEALDsの女の子と喋りたい」という話があったんだよね。で、さらに前提を言うと、SEALDsのステートメントって、9割9分、男性が書いてるんですよ。デザインは男性と女性が半々か、ちょっと女性が多いかぐらいだし、運営も半々なんだけど、ステートメントに関してはほぼ男性。で、<朝生>みたいな討論の場に出るのも100%男性。何でかっていうと、政治専攻の女性メンバーがひとりもいない。
牛田 国際政治だったらいるんじゃない?
上野 「政治を素人のものにしよう」と思ってやってるのに、何も専門性にこだわることはないじゃない。
奥田 まさにそうなんですよ。例えば、スピーチをやるのは女性も多いんです。それなのに、対談とか討論になると、ほとんど発言しないとか、自分から行きたがらないとかいうことになってしまう。だから、まずは、岡野さんや三浦さんが「女子会をして、ざっくばらんに話そう」ということになったんですね。そのためにつくったのが、さっき話に出たLINEグループ。
福田 でも、実際、SEALDs内で、知識的に比べたら圧倒的に男の子の方が強いと思う。だから、ステートメントが書けるわけで。確かにアホじゃ書けないですよ。私、自分が書けると思えないし。
上野 それは個人差じゃない?
福田 そう。なので、「女だから」「男だから」っていうふうに分けなくていいじゃんって思ってて。「女の子で討論に参加するひとがいないから」「女の子でステートメントを書くひとがいないから、補充しなきゃいけない」とかじゃなくて、やれるひとがやればいいし、そこで、ジェンダーなんかどうでもいいじゃん、みたいな。どうでもいいって言うとちょっときついけど、どうして、女の子だけで固めて分断しちゃうんだろうと思って。
奥田 まぁ、そうだよね。
福田 それって、今まで歴史で起こったことを、もう一回、繰り返してるだけじゃんっていう。
牛田 前にメンバー向けのサロンで、「匿名でSEALDsの批判をしてくれ」ってアンケートを取ったんですけど、そこでも、「女性の使われ方が……」っていう意見はあった。
奥田 スピーチャーとかフライヤーには出てくるけど。
牛田 学術的な場所には出てこないっていう。
上野 前にフライヤーで童顔の女の子が使われてたでしょう?
牛田 (溝口)萌子ですかね?
上野 私、あれを見た瞬間、「あざといな~」って思った。
奥田 いやいや(笑)。最初、フライヤーに使われてたのは僕ら(奥田、牛田)の顔だったんですよ。だから、結構、バランスを考えてやってるんですけどね。
福田 私は、その〝SEALDs女子〟の件で嫌だったのは、提議したのが男の子だったってことで。どんな事情があったにしろ、それこそ、女の子をエンパワーメントしようと思った男の子がいて。それはとても間違ってるし、家父長制があるやん、そこにっていう。
上野 おお、家父長制という言葉が生きているのか!(笑)
福田 意味、間違ってるかもしれないけど(笑)。嫌だなと思って。
奥田 まぁ、彼も先走ったようなところがあったんだろうけど、結局、この問題はどうしたって指摘されることだと思うんですよ。この座談会だって、オレが仕切ってるわけでもないのに、絶対、言われるから。
――SEALDs内にジェンダー・ギャップがある免罪符としてセッティングしたんじゃないかと?
奥田 あと、正直に言ってどう解決したらいいか分からない。例えば、外国特派員協会で記者会見をした時も、「男性しか喋らなかった」「女性は最初にちょっと説明しただけで」みたいなことを指摘されて。それで、ミーティングに持ち帰って、「確かにそれはよくないから、女性のメンバーでステートメントを書く人を募ります」と言って、その場では盛り上がるのに、いざやろうとなっても誰も出てこないということを1年間繰り返してきたわけで。恐らくそれは、男性の政治家が多い問題にも繋がるっていうか。
上野 運動の中っていうのはユートピアじゃないんで、運動の外の世界にあるジェンダー関係をそのまま持ち込むことになる。だから、放っておけば、外の世界と同じ性分業が起きてしまうのよね。男が前に出て女が控えめになるとか。
この前、五郎丸歩ってラグビーのスター選手が「好きな女性のタイプは?」って聞かれて、「一歩二歩下がって歩く女性が好きです」って言ったのを聞いた。それってコントロールしやすい女ってことでしょう。そんなことぬけぬけと言うなよ、自分の男性性に自信を持ってるなら、「パワーのある、尊敬出来る女性がいい」ぐらい言えよってムカついてたら、女友達が「昔は三歩下がってって言われてたんだから、一歩前進したってことじゃない?」って(笑)。
男の子が普通にふるまうと、やっぱり、性別分業が何となく形づくられちゃうし、女の子の方も控えめに後方支援の役割を引き受けちゃうし――っていうことが起きてしまう。
福田 さっき話に出たサロンでの匿名のアンケートにしても、「女性の使われ方が」って書いてたのが男なのか女なのか分からないけど、何で、使ったり、使われたりする前提なのっていう。それは、そういう意識が社会の中にあるからだし、それこそ「三歩下がって」とか「料理をいっぱいして」とかってことが、「いい彼女特集」みたいに銘打って、普通の女の子たちが読むような雑誌にポンって載ってたりするし。で、そういう、社会が持ってるメンタリティは、何かのグループになったら凝縮されるわけで。だから、今さら驚くことではないのかもしれないけど、凝縮されるからこそ、「実際にあるんだな」って思ったんだよね。
牛田 ただ、その問題に対して、僕が男として何が出来るのかっていうと、難しいなとも思うんですよね。そういうことがあるっていう現実を理解するところから始めなきゃいけないというか、社会はそう簡単には変わらないからこそ、まずは自分が変わらなきゃなって。
奥田 うーん。単純に経験値が違うと思うんだよね。映像として出てくるものは、男女平等――あるいは、女性の方が多いぐらいなんだけど、まずそれが、メディアが女性性を利用してない? っていう感じだし、いざ、討論とかインタビューとか深い話になると、呼ばれるのは男性。で、男性だって最初は適当なことしか言えなかったけど、何回もやっているうちに話が上手くなってくるわけですよ。やっぱり、そういうところに呼ばれると勉強しなきゃって思うじゃん。オレだって、憲法学とか知ったこっちゃねえよって分野だったのに(笑)、すげぇ勉強したし。そういうふうにやれば出来る。
上野 今の話、面白いね。つまり、ポストが人の能力を育てるのよ。それは、総合職女の処遇と同じで、「女にリーダーシップがない」とか言われるのは、そもそも、リーダーシップが必要なポジションに女を立たせたことがないから。
――そもそも、経験値の配分にジェンダー・ギャップがあると。
上野 そういった能力が育つような場所に男の子たちが優先的に座って、結果として差が開いていくみたいなことはあった?
奥田 僕はそう理解してるんですよ。
牛田 まぁ、僕もそうですね。
――マスコミだったりアカデミズムだったりにも、男性に声をかけがちな傾向がある?
奥田 というか、女性が自分から引いちゃう傾向がある。「自分には出来ないんで、詳しい人が行ってください」って話になっちゃう。ただ、みんな、去年の夏(国会前抗議)に関しては、「男性のスピーチより、女性の方が面白かった」って言うわけですよ。で、その時にオレが違和感を感じるのは、そのスピーチを解説してる学者が男性ばっかりっていうこと。もちろん、そこには、学者も圧倒的に男性が多かったり、文章にする記者も男性が多かったりっていう問題があって。結果、男性目線の解説が世に溢れるっていう。それは何か変だなって。
上野 「男性のスピーチより、女性の方が面白かった」っていうのは、手垢の付かない言葉で喋った方が伝わるっていうことよね。男の子の使う言葉って、誰かがどこかで使った言葉っていうのがしばしばだから。やっぱり、相手の土俵に乗らない、相手の言語体系に乗らないことも効果的だと思うよ。例えば、政治家とか評論家とかとの討論会にも、和香子さんがそのまんまの言葉で出れば、相手にとっては異文化なわけ。そうなったら、相手はこっちの土俵に乗って、理解しなきゃいけなくなる。
――だから、女性も臆せず討論の場に出て行けばいいし、組織としても積極的に起用していけばいいということですね。
上野 さっきも言ったように、運動体は社会から隔離されたユートピアでも何でもないから、たった今、ここで、理想主義を実現することはもちろん出来ないけれども、あなたたちが「民主主義が重要だ」って言うならば、組織の中でそれがいくばくかでも実現されていないと、言ってることとやってることが違うというふうになってしまうじゃない?
奥田 そうですね。やっぱり、SEALDsの中でももうちょっとやりようがあるんだろうなとは思います。
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