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百田尚樹

百田尚樹(ひゃくた・なおき)
1956年、大阪生まれ。同志社大学中退。人気番組『探偵!ナイトスクープ』など放送作家として活躍。2006年『永遠の0に』(太田出版)で作家デビュー。『聖夜の贈り物』『ボックス!』(いずれも太田出版)、『風の中のマリア』(講談社)、『モンスター』(幻冬舎)など多彩な執筆活動を展開し読者の熱い支持を集めた。いま最も期待される作家である。最新刊は『リング』(PHP研究所)。

松田哲夫

松田哲夫(まつだ・てつお)
1947年、東京生まれ。1970年、東京都立大学を中退し筑摩書房に入社。数多くのヒット作を手がけた後、現在は顧問を務める。著書に『これを読まずして、編集を語ることなかれ。』(径書房)、『印刷に恋して』(晶文社)、『「王様のブランチ」のブックガイド 200』(小学館101新書)など。

INTERVIEW

SPECIAL INTERVIEW 02

2010/03/26 17:00 INTERVIEW

聞き手:松田哲夫 写真:辺見真也

第2回
放送作家から作家へ
自分だけの作品を目指して

百田
(松田氏の著書『印刷に恋して』を読んで)
これ読んだら、昔はホントに本出すのが
いかに大変やったかわかるなあ。
本を1冊出すのは、やっぱり大変な苦労でしたよね。
松田
そうですね。
いまは、わりとシンプルになっちゃいましたから。
百田
気楽になりましたよね。
この間もある編集者と話をしていて、
昭和30年代、40年代の作家は、
かなりの大家でも
長編小説は書かせてもらえなかったって。
松田
まず組版が大変ですからね。
いまはテキストデータがあれば、
たとえば原稿の文字数が多くても
印刷現場の負担にはならなくなりましたけど、
昔は手で活字を組んでますから。
その上に書き直しでドカッと原稿を削ったり
加えたりしていくと、
修正代がとんでもなくなります(笑)。
百田
原稿を直す毎にゼニがかかるんですね(笑)。
いまはホンマに、もう気楽にやらしてもらって。
本を作るまでの作業が気楽になってるから、
よけいに作家は気楽に本出せますよね。
松田
ありがたみがなくなったっていうことも、
ありますね(笑)。
百田
『ボックス!』なんか
(400字詰め原稿用紙で)1000枚を越えてるんで、
20年前だったら絶対出せないですよ(笑)。
松田
(笑)。百田さんは小説家として活躍中の現在も
放送作家をされてますけど、
放送作家としてのお仕事は何年ぐらいなりますか?
百田
もう30年近くやってますね。
松田
そこで小説家になろうというか、
小説を書こうと思われたのは、いつ頃なんですか?
百田
若いとき、20代ぐらいのときは
「いつか小説を書いてみたいな」という
ボンヤリとした憧れは持ってましたけど、
なかなか本気でやってみようっていう
踏ん切りはつかなかったんです。
そのうちに本業のほう、テレビが忙しくなってきて、
ずっと20数年仕事をしてきたんですね。
それで気がついたら、私、誕生日が2月なんですけど、
ちょうど49歳の暮れのときに
「ああ、もうすぐ年明けて誕生日もあるなあ」
「もう50年も生きたんかい」と。
それで昔は「人生五十年」って言われてたから、
もう50で終わりなんやなあ......と思ったら
急に「アヒャー!」となって(笑)。
そのときまで自分の人生を振り返ってみることは
なかったんですけど、
改めて自分の人生を振り返ってみたときに、
毎回毎回テレビでオモシロおかしく
仕事をしてきましたけど、
なんか、自分がコレをやった! って仕事は
あんまりしてなかった気がして。
松田
井上ひさしさんや青島幸男さんもそうですけど、
放送作家から作家に転身される方は多いですね。
百田
そうですね。野坂(昭如)さんとか。
松田
テレビやラジオの仕事は、
その場では面白いんですけど、
どんどん消えていってしまう寂しさもありますよね。
それに対して、本という形で残る仕事をしたい
というような、そんな気持ちはありましたか?
百田
ありましたね。面白い番組になったと思って、
それで視聴率何パーセントを取った。
もちろん高ければ高いほど
見てくれてる人が多いわけですし、
いまはDVDもあるんですけど、
基本的にテレビは放送してしまえばオシマイなんです。
二度と見れない。
生放送だと失敗しても何しても放送したら終わり、
生やからやり逃げみたいなとこもあるんですけど、
やっぱり一所懸命台本書くのに何日もかけて、
ディレクターと一緒に相談しながら作ったものを
1回オンエアしたときに
「ああ、もう終わりか」「これ名作やってんけど、
もう二度とオンエアされへんのか」
っていうのは、やっぱり寂しいですよね。
松田
それは寂しいですね。
百田
もうひとつ、これも大きな理由なんですけど、
テレビの仕事というのは、
自分がトコトン関わった番組だとしても、
じゃあ、この作品の100のうちに
自分はどのくらい入ってるのかな? っていうのは、
わからないんですよ。
たとえば私は台本書くんですけど、
結局、その台本を元に演出家が演出かけて、
それを演じるのは演者さんです。
さらに、そこに編集マンがいて編集をして、
音声さんが音をつける。
松田
あとはプロデューサーやスポンサーが
口を出したりしますからね。
百田
そういうふうに考えると、
確かに自分の作品ではあるけれども、
自分がそこに何パーセント絡んでるっていうのは、
ホントにわからないんです。
ただ本は、もちろん編集さんの助けを借りて
書くんですけど、
それでも「自分がコレをやったんや!」
って言えるかなあ、と。
松田
中身に関しては、ある意味で純粋に
自分のものと言える部分が大きいですよね。
百田
自分の字ですから
「この辺ようわからへんからお前が書いてくれ」
ってわけにはいかない(笑)。
そういう意味で、ホントに初めから終わりまで、
すべて自分だけの作品を書いてみたいっていうのが
気持ちの中にあったんですね。(その3に続く)
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