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百田尚樹

百田尚樹(ひゃくた・なおき)
1956年、大阪生まれ。同志社大学中退。人気番組『探偵!ナイトスクープ』など放送作家として活躍。2006年『永遠の0に』(太田出版)で作家デビュー。『聖夜の贈り物』『ボックス!』(いずれも太田出版)、『風の中のマリア』(講談社)、『モンスター』(幻冬舎)など多彩な執筆活動を展開し読者の熱い支持を集めた。いま最も期待される作家である。最新刊は『リング』(PHP研究所)。

松田哲夫

松田哲夫(まつだ・てつお)
1947年、東京生まれ。1970年、東京都立大学を中退し筑摩書房に入社。数多くのヒット作を手がけた後、現在は顧問を務める。著書に『これを読まずして、編集を語ることなかれ。』(径書房)、『印刷に恋して』(晶文社)、『「王様のブランチ」のブックガイド 200』(小学館101新書)など。

INTERVIEW

SPECIAL INTERVIEW 07

2010/04/30 17:00 INTERVIEW

聞き手:松田哲夫 写真:辺見真也

第7回
親友にさえ負けたくない
10代の悩ましい気持ち

松田
『ボックス!』はボクシングの魅力を
余すところなく描いてる傑作だと思うんですけど、
高校生の男の子が持っているある種の生臭さというか、
汗臭さ、たとえば性的な関心や恋愛感情、
そういった悩みまで
キチンと描かれているなって感じしたんですよ。
百田
ありがとうございます。
やっぱり、どうしても男の子はね、
そういうものに悩まされますからね。
松田
恋愛小説としても、
耀子先生を巡る淡い三角関係というのが
ボクシングの試合と並行して
読者を引きつける感じがしましたね。
そのくらいの先入観を持っている人も
魅了させてやろうと。
百田
そうですね。
非常に幼い気持ちではあるんですけど
「好きな女性の前では強くありたい」とか、
あるいは「男同士で腕力では負けたくない」
という気持ちは、特に10代の男の子特有の
ものだと思うんですね。
それで憧れの女性が近くにいたりしたら、
その気持ちが複雑に絡み合って、
自分の親友にさえ負けたくないという気になる。
そのあたりの10代特有の悩ましい気持ちが
書けたらなあ、とは思ってました。
松田
百田さんは実際にボクシングをやられていて、
自分の好きな人が試合を見ているとか、
そういったシチュエーションは
経験されたことがありますか?
百田
自分の恋人とか、
好きな人が試合に見に来たってことはないですね(笑)。
もし見に来てたら......わかりませんね。
ただ、絶対に倒されたくないとは思ったでしょうね。
松田
先輩とか同級生で、
彼女が試合に来たりとかはありませんでしたか?
百田
ほとんどなかったと思います、当時は。
大学なんで親が来ることもないですし、
試合も殺伐とした雰囲気でしたから。
でも、次の試合で100%勝つ自信があったら、
連れて来てたかもしれませんね(笑)。
勝つか負けるかわからへんっていう試合だと、
やっぱり女の子はね。
松田
負けて母性本能がくすぐられるとか、
そういった高等テクニックとかも
あるかもしれませんよ(笑)。
百田
なるほど(笑)。
倒されて「ああ可哀相、
私が慰めてあげなければいけない」って。
それだと、いけたかもしれないですね(笑)。
松田
(笑)。ところで『ボックス!』は
(400字詰め原稿用紙)で1000枚ですか?
百田
1000枚をちょっと超えたぐらいですね。
松田
ある程度、削ったんですか?
百田
ほとんど削らなかったですね。
担当編集の岡さんに
削れって言われるかなと思ったんですけど
「これで行きましょう」って(笑)。
「うわ~これで出してくれるんかいな!」と思って。
松田
一度読み出すと、
最後まで一気に読んでしまいますよね。
今回『ボックス!』を文庫にするにあたって、
少し削られたんですか?
百田
そうですね、1割ほど。
松田
お世辞ではなく、ホントにムダな肉がないというか、
ボクサーの身体みたいな作品だと思ってたんですけど、
それでも落とせるところがあったと。
百田
そうですね、さらに減量をして(笑)。
松田
そして、勝ちに行くと(笑)。
百田
絞るに絞って。
でも、どこかのエピソードを
ゴッソリ落とすことはなかったんですよ。
すべてのエピソードが、
自分の中では必要だなと思えたので。
それで再度じっくり読み直して
「ここの1行はいらんな」とか、
そういう細かいところを落としていったら、
結構絞れましたね。
ただ、ボクシングのシーンは全然絞ってないんですよ。
松田
いわゆる日常の場面から削ったわけですか?
百田
そうですね。
普通の場面で「ここのセリフは
1行カットしてもええか」とか、そういうところです。
いやホントに、いま減量と言うたんですけど、
試合前の最後の何グラムかを削ってる感じでしたね。
だから結構楽しかったですよ。(その8に続く)
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