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百田尚樹

百田尚樹(ひゃくた・なおき)
1956年、大阪生まれ。同志社大学中退。人気番組『探偵!ナイトスクープ』など放送作家として活躍。2006年『永遠の0に』(太田出版)で作家デビュー。『聖夜の贈り物』『ボックス!』(いずれも太田出版)、『風の中のマリア』(講談社)、『モンスター』(幻冬舎)など多彩な執筆活動を展開し読者の熱い支持を集めた。いま最も期待される作家である。最新刊は『リング』(PHP研究所)。

松田哲夫

松田哲夫(まつだ・てつお)
1947年、東京生まれ。1970年、東京都立大学を中退し筑摩書房に入社。数多くのヒット作を手がけた後、現在は顧問を務める。著書に『これを読まずして、編集を語ることなかれ。』(径書房)、『印刷に恋して』(晶文社)、『「王様のブランチ」のブックガイド 200』(小学館101新書)など。

INTERVIEW

SPECIAL INTERVIEW 03

2010/03/27 17:00 INTERVIEW

聞き手:松田哲夫 写真:辺見真也

第3回
『永遠の0』『聖夜の贈り物』
そして『ボックス!』へ

松田
小説家になる決断が50歳というのも、
ある意味では相当に遅いというか(笑)。
百田
遅いですね(笑)。
だから50歳までに「これが僕の作品だ」
っていうものを残したい気持ちがあって。
それで49歳の暮れから50歳の誕生日、
2月まで猛烈に書いたのが『永遠の0』なんです。
『永遠の0』で太田出版さんと縁ができて、
その後に『聖夜の贈り物』を出し、
3作目に書かせてもらったのが『ボックス!』。
『ボックス!』は太田出版の社長で
僕の担当編集でもある岡さんとしゃべっているとき、
岡さんからのアドバイスでできた小説なんですよね。
岡さんと一緒に飯食うてるときボクシングの話、
それはプロボクシングなんですけど、
よく話をしていたんです。
それで、岡さんが
「百田さんのボクシングの話は面白い」
「ボクシングの小説書いてみませんか?」と。
それで僕は最初、無理ですって断ってるんですよ。
松田
それは、なぜですか?
百田
ボクシングには『あしたのジョー』とか
『はじめの一歩』のような名作マンガがたくさんある。
映画だと『ロッキー』や『チャンプ』、
あとは(マーティン・)スコセッシの
『レイジング・ブル』もある。
ボクシングに関しては映画もマンガも、
すごく名作が多い。
でも、小説にはほとんどないんです。
それはなんでかっていうと、
ボクシングは非常に映像的だから。
つまり1秒の間にパンチを数発交換する、
そこにすごいドラマがあるんですけど、
それは画で見るしかありえないことで、
その動きを文字にするのは無理やと。
それで断っていたんですけど、そうすると岡さんが
「そうは言うけど百田さんはしょっちゅう
ボクシングの話をするじゃないですか。
その話を聞いて、僕は面白いと思います。
話を聞いてそれだけ面白いんだから、
文字も一緒でしょう」って。
それで「ああ、ホンマやな」と。
松田
言葉で伝えられるわけですからね。
百田
それやったら可能かなと思って、
それなら挑戦してみようかな、と。
で、最初は枚数にしても500枚ぐらいで
収めようと思ったんですけど、
書いてるうちに自分でも面白くなってしまって、
最終的には1000枚を超えてしまったんですけどね。
松田
最初からプロではなくてアマチュアボクシングを
書こうと思っていたんでしょうか?
それまで百田さんが岡さんに話をされてたのは、
プロボクシングの話が多かったわけですよね。
百田
そうですね。
でもプロボクシングは、
最初からやめようと思ってたんです。
プロっていうのはいろんな要素があって、
興業、ビジネス、カネ......
そういうものにまつわる話が非常に生臭くて(笑)。
それよりは、もう、純粋なボクシングの魅力を
描くならアマチュアだろうと。
で、実際に自分自身も、
大学でボクシングをやってたんですけど。
松田
なんで大学でボクシングを選んだんですか?
それまでケンカが好きとか、
殴り合いをしたいといった衝動があったとか?
百田
あははは(笑)。どうでしょうね。
わりあい小さいときから僕はヤンチャやったんで、
小中学生のときはケンカもしてたんですけど、
さすがに高校になるとケンカすることもなく。
その一方でボクシングはちっさいときから
テレビで見てて、すごい魅力的なスポーツだな
っていう印象がずっとあったんですよ。
ただ中学高校でボクシング部はないし、
なかなか実際にやる機会もなかったんですけど、
たまたま大学に入ったら大学にボクシング部があって。
何の気なしに部室を覗いてたら非常に面白そうで、
それで見学させてもらってたら
「君、1回グローブはめてリングに上がってみるか?」
って言われて、
「ああ、こんなのやらせてくれるんか」と。
ほんで初めてグローブはめてリングに立って、
ボクシング部の先輩を
ムチャクチャ打ちまくったんですけど、
まあパンチが1発も当たらなくて。
こんなに当たらんもんか、と(笑)。
ケンカとはまったく違うなあって思ったんですよね。
松田
その先輩は、ものすごく強い人なんですか?
それとも並の人?
百田
並の人ですね(笑)。
松田
だけど、やっぱり素人とは違うと。
百田
全然違いましたね。
もちろんマトモに当てようと思って
グイグイ頭がぶつかるぐらい近づいて
打てば当たるんですけど、
そこまでやると相手も嫌なんで左を出すんですよ。
それだけで、もう近づけない。
松田
結界を張るんですね。
百田
どんなにパンチを振り回しても当たらない。
そのときに初めて「これはすごい技術的だな」
「これはケンカとは違うな」と思って、
すぐに入部したんです。(その4に続く)
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