スペシャル
1969年のデビュー以来、常に私たちの心に静かな革命を起こし続けているマンガ界の偉大な女神、山岸凉子さんと萩尾望都さん。ふたりの初対談が、現在発売中の『Otome continue vol.6』にてついに実現。2万字を超すロング対談より、一部抜粋してお届けします!
「パエトーン」の警鐘
―――最近お読みになったお互いの作品で印象に残っているのは?
山岸 私は「春の小川」が……泣きました。もう何年振りだろ。ノンフィクションで子どもが病気で死んでしまうとか、そういう体験記はどうしても読んだら泣いてしまうというのはありますよね。そうではなく、全くのフィクションで泣いてしまったというのは、もう何年振りだろうな、と。
萩尾 山岸さんにそう言われたら……。
山岸 いやもうほんとに。
萩尾 私は、「テレプシコーラ」が終わって、ちょっとがっかりしていたところに「ケサラン・パサラン」が始まって。楽しみに読んでます。
山岸 すみません、また変なのを始めちゃって。
萩尾 以前お家を買われたときの苦労話をちらっと聞いたことがあるので、それがこれから始まるのかなと。
山岸 もう、身の恥をいっぱい。でももう決めたんです、笑われてもいいやと思って、一切描いちゃおうと。
萩尾 あおり文句がいいですよね。「これから家を建てたい人は読まないでください!」って。
―――あの「警告」って文字、どきっとします。
山岸 ひどいでしょう。すみません(笑)。
萩尾 あとは、福島原発事件のいま、話題にするなら「パエトーン」ですよね。何年の作品でしたっけ?
山岸 これは23年前、88年に発表しているんです。チェルノブイリの事故は86年なんですけど。その少しあとに。
―――いま「新作です」って言われてもおかしくない内容ですよね。
山岸 それぐらい原発の状況がまったく何も変わってないってことですよね。
萩尾 そうですよねえ。作中で、山岸さんがコップを持って「一生このコップを落とさないって言える?」って。もしかしたらあるかもしれない失敗を、どうして想定しなくて平気なのかなって……。
―――それにしても「パエトーン」は、すごく先見の明のある、いまも力のある問題作です。
山岸 いまこんなさなかにネットで公開してしまって、かえってみんなの不安をあおるだけじゃないかなと、ものすごく気になっているんですけどね。
萩尾 いやいや、十分不安なんだから。
山岸 そうですかね。
萩尾 情報が欲しい状態なんですから。むしろ警鐘として鳴らしていたものが、やっと役に立っている。ああなるほど、事故って、起こるんだと、どかっと腑に落ちているという状態ですよね。
〈プロフィール〉
- 萩尾望都
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1949年福岡県出身。69年「ルルとミミ」でデビュー。少女マンガの表現を大きく発展させた。代表作「ポーの一族」 「トーマの心臓」 「11人いる!」 「残酷な神が支配する」 「バルバラ異界」ほか多数。『月刊フラワーズ』で「シリーズ・ここではないどこか」を不定期連載中。
- 山岸凉子
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1947年北海道出身。69年「レフトアンドライト」でデビュー。心理描写と表現力に高い評価を得る。代表作は「アラベスク」 「妖精王」 「日出処の天子」 「舞姫 テレプシコーラ」ほか。恐怖・怪奇幻想作品も多数。『ダ・ヴィンチ』で「ケサラン・パサラン」連載中。