スペシャル
1969年のデビュー以来、常に私たちの心に静かな革命を起こし続けているマンガ界の偉大な女神、山岸凉子さんと萩尾望都さん。ふたりの初対談が、現在発売中の『Otome continue vol.6』にてついに実現。2万字を超すロング対談より、一部抜粋してお届けします!
出会いの頃
―――おふたりが最初にお会いになったのはいつなんでしょうか?
山岸 デビューしたてくらいの年ですね。最初はささやななえこさんと大泉を訪ねたんです。私が迷ったのがその次、ひとりで行ったときだったのを覚えている。たどり着けなくて。
萩尾 山岸さんもささやさんも北海道出身ですよね。それで最初一緒にいらした。
山岸 そう、私がささやさんより先にデビューしてて、北海道に一時戻ったときに、編集部を通して知り合ったんですね。私、ささやさんの作品を手伝った記憶がある。
萩尾 ささやさん、大泉に住んでいたんです。なんか1回来て、半年くらい住んでいて。
山岸 (笑)知らなかった。
―――大泉時代は2年くらいだから、4分の1いらしたっていうことですね(笑)。
萩尾 その後、山岸さんともお互いに行き来して、手伝ったり。ベタ塗ったりとか。もうすごい貴重ですけど、山岸先生に描いて頂いたドレスとかあるんです。
山岸 覚えてます、恥ずかしくて。「この黒いドレスの、ここのところに陰影を付けたいの、なんか素敵に付けたいの」って萩尾さんが言ったんですよ。でも、私ったらものすごく汚いカケアミをやってしまって。人の作品は全然手伝えないですよ、私ほんとにテクニックがなくて。
萩尾 いやいや、そんなことはないです。
山岸 その点すごいですよ、萩尾さんは。「アラベスク」の表紙の後ろの背景を全部描いて頂いたことがあるの、綺麗に綺麗に。バックのネヴァ河を挟んだ向こうの市街地を。あなたがね、「建物描きたいの」とか言って。ノンナとユーリがいて、その後ろに。
萩尾 そちらはあまり記憶にないけど……。あ、だんだん、思い出してきた。私が覚えているのは「雨とコスモス」を手伝いに行って、色々描かせて頂いた記憶が。最初のお手伝いだったので、これは覚えてます。初めてのお使いみたい?
山岸 あー、絶版になっている作品です。内容が恥ずかしくてもう全然復刻してないんですけど……手伝って頂いてたんですっけ。じゃあ、もう一度見てみなくては。
―――萩尾先生がお手伝いなさったのはわかったのに、山岸先生のがわからないのは寂しいですね。
山岸 わからないままでいてほしいです。
萩尾 顔が山岸先生の顔になっているから、可愛い顔を探せば。
―――もう少しヒントを(笑)。
萩尾 私が印象深く覚えているのは、「メリーベルと銀のばら」をお手伝いして頂いたことだったんだけど。井草にいた頃ですね。
山岸 そうでした? そんなおこがましいことやってるのだろうか、私(笑)。
萩尾 とんでもない。素敵な、センスのあるドレスを描いて頂きました。
―――最初にお話しされた内容など、覚えてらっしゃいますか?
萩尾 山岸先生が素敵だったという印象は覚えているのだけど。
山岸 最初は、竹宮惠子さんを訪ねて行ったんです。そのときは萩尾望都さんというすごい人がいることを知らずにいてですね、それで行ったら、なんかとんでもない人がいたという感じで(笑)。
萩尾 そんなことないですよ(笑)。ただの、田舎の人です。
山岸 やっぱりすごかったですよ。
―――それで2回目には迷われたんですか、ひとりで行って。
山岸 私、方向音痴で、一度は行ったので行けるものと思っていたら、「あれ? 全然わからない」と思って。駅から大分歩いていったんだけどわからなくて、当時は公衆電話ですから、電話して聞くじゃない? でも行くと道がない。すごく試行錯誤して、悪いなって思ってまた掛ける、そうするとまた、説明される。「そうですか」って受話器を置いてまた……。
萩尾 ささやさんが説明してたの?
山岸 違うの。サロンの誰か、いっぱいいた中のひとりが。
萩尾 サロンなんてものじゃあ……(笑)。下宿の誰かが(笑)。
山岸 私にはそう見えたんですよ、いつもスゴイ人たちがいっぱいいて。で、ついに3回目を掛けたら、「いま迎えの人を出します」って。そうしたら、家と家の隙間から人間が。「なんですかここは、ここを通りだなんて私に言わないでください」と思いました(笑)。
萩尾 ああ、畑道だったのよね。
山岸 そう、そうなんですよ。畑を突っ切るための、家と家の隙間の道。しかも木が立っててですね、その隙間の枝のところから、人が。そんなところに道があったなんて気付かなくて。
城 (城章子、萩尾マネージャー) よく覚えてますねえ(笑)。
―――それは萩尾さんが何を描いていらっしゃった頃でしょうか。
山岸 最初ささやさんと行ったときは「かわいそうなママ」を描かれていた頃です。本をもらって帰ったので。「これが出たばかりの本よ」というので、喜んで持って帰りました。
―――1971年ですね。
城 あれ、「母の日特集」に掲載されてたんですよ。それでお母さんを殺しちゃう男の子の話。なんと恐ろしい作家だと思いましたよね(笑)。
萩尾 あれは1年くらい前に描いたのを、小学館が買ってくれて載せてくれたの。
山岸 帰宅すると私が読むより先に、妹が読んだのですよ。それで「この人のが好きーっ」と言ったのを見たら、「かわいそうなママ」だったんです。「ええーっ! 私いまこの人に会ってきたのよ」って。それで読んで、もうびっくりしました。だから萩尾作品は妹が先に見つけたんです(笑)。
―――じゃあ「かわいそうなママ」が最初の萩尾マンガ体験なんですね?
山岸 そうです。
〈プロフィール〉
- 萩尾望都
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1949年福岡県出身。69年「ルルとミミ」でデビュー。少女マンガの表現を大きく発展させた。代表作「ポーの一族」 「トーマの心臓」 「11人いる!」 「残酷な神が支配する」 「バルバラ異界」ほか多数。『月刊フラワーズ』で「シリーズ・ここではないどこか」を不定期連載中。
- 山岸凉子
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1947年北海道出身。69年「レフトアンドライト」でデビュー。心理描写と表現力に高い評価を得る。代表作は「アラベスク」 「妖精王」 「日出処の天子」 「舞姫 テレプシコーラ」ほか。恐怖・怪奇幻想作品も多数。『ダ・ヴィンチ』で「ケサラン・パサラン」連載中。