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人外漫画ブームの中心的な作品のひとつ、『セントールの悩み』。 ケンタウロスの女子高生が営む日常生活を切り取った作品は 風変わりな設定ながらも、多くの読者を獲得することに成功した。 その著者である村山慶の第2作目となる『きのこ人間の結婚』が先日完結、 単行本として刊行された。 「きのこ人間」という、やはり人外な生物をモチーフに、 封建制度の強い架空の惑星で、階級差を超えて結ばれた主人公が、 さらわれた妻を取り返しに行く冒険譚である。 村山慶が描く世界はファンタジックでありながら不思議とリアリティがある。 『きのこ人間の結婚』がいかにして作り上げられたのか、 村山流創作術から幼少期に影響を受けたものまで、1万字のロングインタビュー!
社会の構造がないと
設定だけの話になってしまう
―― 作品についてはこれぐらいにして、先生のパーソナルなことも伺わせてください。まず、先生が男性か女性かお会いするまでわかりませんでした。線はデリケートだし描き文字も丸いし、フェミニンな要素が多いなと思ったのですが、男性なんですね。
村山 別に秘密にしてるわけではないですよ。コミティアとかにも出てますから。丸文字とかは作品世界に合わせてデビューしてから練習したんです。
―― 絵についてもそうですけど、いろいろ修行されてるんですね。
村山 そうですね、漫画家になるのに不足している要素が多かったですから。
―― 社会人経験がおありとのことですが、漫画家としてデビューされたのは何歳の時なんですか?
村山 「コミックリュウ」で銀龍賞を獲った時で、37ですね。
―― ということは成人されて大分経ってから作家になられたわけですが、幼少期や学生時代に影響を受けたものってどんなものがありますか?
村山 「三国史」は『演義』から吉川英治のものなど、いろんなバージョンをすごく読みました。これはバックボーンになっていますね。三国史ってのは人間社会の縮図なんですよ。
―― 世界が物騒なところは影響を感じますね。
村山 そういうところも三国史から受けている影響が大きいかもしれないですね。スケール感とかも。それはすごく重要です。他にも歴史モノとかSFとか読みましたね。『トリフィド』とか。イギリスの小説なんですが、「トリフィド」という食料にも油にもなる万能植物が生産されるようになるんです。その栽培が全世界に広がっていくんです。「トリフィド」は食虫植物なんですが、人間が管理している限り害はない。ところがある日流星群があらわれて、それを見た人類はみんな盲目になってしまう。それで管理できなくなったトリフィドは人類に襲いかかっていく。たまたま手術後で目を開けられなかった人や、元から盲目だったわずかな人たちだけが助かる、という、ジョン・ウィンダムという人が書いた作品です。あとは『フェッセンデンの宇宙』とか、SFの古典を愛読していましたね。
―― 何歳ぐらいの頃に読まれてたんですか?
村山 小学生の中学年くらいでしょうか。近くに図書館ができて、いろいろ読むようになったんです。いろいろ読んだとはいえ、読書狂と呼ばれるような人からみたら全然ですけど。
―― 漫画にはあまり接点がなかった?
村山 父親が持ってた『のらくろ』は読みましたけど、あまり漫画は読んでなかったですね。
―― そういう漫画・アニメ・ゲームの類は全くですか?
村山 『ガンダム』は観ていました。再放送の時で、小学生ぐらい。ガンプラブームがあって、自分も作りました。ガンダムには大好きなエピソードがあって、アムロが母親を訪ねて難民キャンプへ行くんです。そこを見回りに来たジオン兵を撃っちゃう。そうしたら母親に責められるんだけど、アムロは「戦争だから撃たなくちゃダメじゃないか!」ということを言うんです(『機動戦士ガンダム』第13話「再会、母よ…」)。これがすごい好きでしたね。どうも不評だったようなんですが。
―― どうして不評なんですか?
村山 辛気くさい話だし、モビルスーツが活躍するような話じゃないからでしょう。けれども大人っていうか、教条的な人たちに理解されない感じで、アムロに感情移入したんだと思います。
―― 大人びた小学生ですね(笑)。
村山 あとは劇場版の最後の戦いで、ザクが2~3機で物陰に隠れてるんですが、隊長機のザクが部下のザクを押しだそうとするんです。するとミサイルが飛び込んできて隊長のほうがやられちゃう。これも好きでした。あとザクで一番好きなのは、宇宙で味方の兵士を曳航して救助しているシーンですね。そういうリアリティとかすごい好きですね。そこから世界観が広がるじゃないですか。普通のアニメだったらやられたらそれでおしまいみたいな感じだったのに、その先が描かれている。実際には「おしまい」で済まないわけですから。
―― いわゆるスーパーロボット系じゃなくてリアルロボットに惹かれた。
村山 ぐっと来るものがありましたね。リアルロボットのほうが断然面白いと思いました。スーパーロボットにはそこから広がる世界がないじゃないですか。
―― 現実を想定して作られた作品からの影響が村山先生を作り上げているんですね。
村山 自分でも作品を作る上で「リアリティを出すためにどうしたらいいか」ということを第一に考えますね。だから、「キャラ作り」みたいなことをしたことがない。
―― では具体的にはどのように登場人物を作るのでしょう?
村山 まず「どういう社会があるか」を考えて、社会を構成する人として登場人物を作っていきます。人間の精神構造っていうのは、社会からの影響から来るわけですよ。「けいおん!」の唯みたいな人が戦国時代の農村に居るかっていうと、まず居ないですよ。あれは現代の余裕のある社会だから存在できるわけです。社会構造や経済、物資といった下部構造が精神といった上部構造を規定しているというのは、マルクスの『唯物論』からの影響ですね。僕はわりとその学説に従っています。
―― 物質が人間の精神を規定しているっていう考え方は基本的にどの作品にも出ていますよね。
村山 それは全部基本ですね。社会の構造がないと、広がりができないし、単に変わってるだけの設定だけの話になってしまうんですよ。「ドジっ娘」とか「メガネっ娘」とかつけても、それだけになっちゃうじゃないですか。そこから話が全く広がらない。逆にそういう人間の行動として、こういう社会でこういう性格の場合だとどうなるのか、ってのが必ず必要なんです。
―― ありがとうございます。最後に『きのこ人間の結婚』を読んでくれた方、買ってくれた方にメッセージをお願いします!
村山 「読んでね」ぐらいしか……(笑)。あとは、「菌類も調べてみると面白いよ」と。心残りとしては戦列歩兵を描けなかったことかなあ。
―― 是非、シリーズ化して描いてください。ありがとうございました!
作品情報
- きのこ人間の結婚
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著者:村山 慶
発行:太田出版
発売日:2014.11
価格:680円+税 -
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- セントールの悩み 9
-
著者:村山 慶
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発売日:2014.12
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〈プロフィール〉
- 村山慶
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2011年、「COMICリュウ」(徳間書店)誌にて、ケンタウロスの女子高生の日常を描いた『セントールの悩み』でデビュー。同作の単行本第9巻発売中。
Twitter:@hitonome