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*「ぽこぽこ」公開当時の記事を再掲載しました。

SEALDs(Students Emergency Action for Liberal Democracy-s――自由と民主主義のための学生緊急行動)による、いわゆる安全保障関連法案に警鐘を鳴らす抗議行動が、さまざまな世代のさまざまな思想の人々を巻き込み、大きな流れになっている。 7月11日、マンガ家の小林よしのり氏が自身のblogにアップした、「シールズとかいう若者にやや好感」というエントリーもその一端だろう。氏は一般的に右傾化の要因となったと評される『戦争論』シリーズの著者だが、現・安倍政権に対しては批判的だ。曰く、「シールズとかいう若者たちは、ちゃんと安保法制の中身を読んで議論してるのだな」「学生運動の時代より、おとなしい若者たちだが、知的である」。はたして、反・安保法制というシングルイシューの下で両者が出会った時、どんな対話が生まれるのか? 8月8日、初の対談が実現した。

小林 つまり、若者たちが安保法制に反対してデモをやっていたら、それを潰そうとする大人たちがどんどん現れてくる。その現状が、わしは心配なんですよ。勝手に心配している。

――小林さんは、『戦争論』以前の90年代半ば、いわゆる薬害エイズ事件の責任を追求する運動を学生たちと共に行い、その顛末を『脱正義論』(幻冬舎、96年)としてまとめられています。

小林 当時、『ゴーマニズム宣言』の読者は、圧倒的に大学生が多かった。で、連載で薬害エイズ事件を取り上げたところ、彼らが協力してくれて、一緒に厚生省を取り囲むデモをやったりしたんです。

ところが、ある時期からそこに左翼系の団体がどんどん入ってきて、自分たちの運動に学生たちを取り込もうとしだした。わしはそれを「危ないなぁ」と思って見ていたんだ。で、結局、薬害エイズ事件の運動そのものは、厚生省が謝罪して原告側が勝ってしまった。だから、決着は付いたはずなのに、学生の中には運動そのものが生きがいになってしまった人たちがいっぱいいて。そして、「運動をやめたくない」と言って、左翼に絡めとられていった。

それに対して、わしは異を唱えたわけ。「若者たちよ、日常に帰れ」と。当の学生たちにはものすごく反発されてしまったんだけど。

でも、社会問題を解決するためには、デモだけじゃダメだと思うんだよ。ひとりひとりがきちんと現場を見つけることが大事。新聞記者になるのもいいかもしれない、ジャーナリストになるのもいいかもしれない、あるいは政治家になるのもいいかもしれない。薬害エイズ事件に関して厚生省が悪かったんだとしたら、内側から組織を変えるために、厚生省の職員になるのもいいかもしれない。そうやって、「現場からじゃないと、将来は変わらないよ」と。「緊急時には集まってデモをやって、ひとつのイシューが終わったら解散して、各人の現場に戻ろうよ」ということをわしは訴えたんだけど、この理屈がなかなか分かってもらえなかったんだ。

きみたちも、いま、安保法制が危険だと思っているから運動をやってるわけでしょう? そのワン・イシューで集まっているだけで、運動自体が好きなわけじゃないわけでしょう?

奥田 いや、もう、毎日「止めたい」と思っています。

小林 (笑)。

奥田 こんなことはいつまでも続けていられないというか、続けていたら自分たちの日常が壊れてしまうっていう感覚のほうが強いですね。

小林 まったく正しい。それこそが正常な感覚ですね。

奥田 だって、(毎週金曜日にSEALDsの抗議行動が行われている)国会前まで行くのにだってお金がかかるわけじゃないですか。しかも、金曜の夜だから、本当なら遊びたいのに、いろんなことを諦めてデモに行かないといけないっていう。一方で、デモの参加者には高校生もいるんですけど、スピーチで「〝高校生なのに偉い〟ってチヤホヤされること自体がおかしい」って言っていて、それは、至極真っ当な感覚だと思いました。

だから、さっきも言いましたけど、別に仕事でやっているわけじゃないですし、メディアに取材されたからといって自分たちの生活が良くなるかっていうと、そうではないわけです。忙しくなればなるほど貧乏になっていく。社会運動って理不尽だな、と。

小林 まったくそうだね。

奥田 なので、僕としては、毎週、デモが終わるたびにしんどいっていうか、「これ、いつまで続けるんだろう」って思うんです。ただ、安保法制成立を止めるためにやっているので、とりあえず、(通常国会の会期である)9月いっぱいまでは。

ちなみに、〝SEALDs(Students Emergency Action for Liberal Democracy s)〟という名前の中に〝Emergency Action(緊急行動)〟という言葉が入っているのも、この運動を常態化させないっていう意識の表れで。

小林 なるほど。

奥田 本当に政治やジャーナリズムの世界でやっていくんだったら、ちゃんとした能力が必要なわけですよね。その能力がない段階でチヤホヤされてもしょうがないし、正直に言って、今後、自分たちにはそういった能力が身に付くとも思えない。とは言え、緊急的な行動、あるいは、若者が声を上げるという点ではそれなりのことが出来たのかもしれないけど、SEALDsはそれ以上でもそれ以下でもないと思っていて。

あと、今回の対談にあたって、いろんな人から「小林よしのりさんと話すんでしょう?」と言われたんですけど、そこで、みなさん、先ほども挙がった薬害エイズの運動についての話をするんです。この前も、とある議員の方から「(小林氏が批判した対・薬害エイズ運動における)いつまでも祭りの感覚を忘れられない若者たちにならないように気をつけてね」と言われました。

小林 そんなことを言われたんだ?

奥田 「僕らが祭りを楽しんでるとでも思ってるんですか? 国会議員がちゃんと仕事をしないからしかたがなくやってるのに!」ってむかついたんですけど。

小林 そのとおりだね。

奥田 まあ、でも、確かに「そうならないようにしなきゃな」とも思います。そして、そのためには、日常こそが大事なんだと思っているんです。


〈プロフィール〉

小林よしのり

昭和28年、福岡県生。マンガ家。代表作『東大一直線』 『おぼっちゃまくん』など。平成4年、「SPA!」(扶桑社)にて、社会問題に斬り込む『ゴーマニズム宣言』を連載開始。同シリーズのスペシャル本として発表された『戦争論』 『戦争論2』 『戦争論3』(すべて幻冬舎)は言論界に衝撃を与え、大ベストセラーとなった。平成24年からは「ゴーマニズム宣言『大東亜論』」(小学館「SAPIO」)を鋭意連載中。最新刊は本格的な戦争マンガ『卑怯者の島』
小林よしのりオフィシャルwebサイト

奥田愛基

平成4年、福岡県生。現在、大学4年生。SEALDsの中心メンバーのひとり。
SEALDs webサイト