現在のページ(パンくずリスト)
トップ > スペシャル > スペシャル詳細

スペシャル

一覧へ戻る

*「ぽこぽこ」公開当時の記事を再掲載しました。

SEALDs(Students Emergency Action for Liberal Democracy-s――自由と民主主義のための学生緊急行動)による、いわゆる安全保障関連法案に警鐘を鳴らす抗議行動が、さまざまな世代のさまざまな思想の人々を巻き込み、大きな流れになっている。 7月11日、マンガ家の小林よしのり氏が自身のblogにアップした、「シールズとかいう若者にやや好感」というエントリーもその一端だろう。氏は一般的に右傾化の要因となったと評される『戦争論』シリーズの著者だが、現・安倍政権に対しては批判的だ。曰く、「シールズとかいう若者たちは、ちゃんと安保法制の中身を読んで議論してるのだな」「学生運動の時代より、おとなしい若者たちだが、知的である」。はたして、反・安保法制というシングルイシューの下で両者が出会った時、どんな対話が生まれるのか? 8月8日、初の対談が実現した。

奥田 小林さんは『戦争論』の冒頭で、「平和だ…あちこちがただれてくるよな平和さだ/だれもこの平和の正体を知らぬまま」って書かれてたじゃないですか。もちろん、僕もそういう状況は気持ち悪いし、嫌だなって感じるんですけど、ただ、同時に、あそこでヘラヘラしているのはまさに僕たち自身だし、そのことこそを大切にしないと、とも思うんです。

つまり、最近、デモをやっている若い子たちが良いなと感じるのは、みんな、〝日常〟がちゃんとあるんです。普通にデートしたり、ディズニーランドに行ったりしながら、その延長で国会前に来たり、政治について調べたりしている。

小林 いや、分かるよ。だから、わしが危惧するのはあなた方じゃないんだよ。要するに、大人たちがヘイトスピーチのデモは許容しているくせに、「今の民主主義はおかしい」と考えているまともな若者たちの運動を潰そうとしている。それはどう考えても変だと思うわけです。

奥田 ええ。

小林 今の国会議員たちの中でも、わしの本に影響されているやつってけっこう多いんだけど、わしの本をどう解釈するかは人によって違うわけだ。

『戦争論』刊行当時の状況って、ものすごく左傾化していたんです。戦前の日本は100%否定されて、祖父と、子や孫の世代が完全に分断されていた。それは間違ってると思って、わしは『戦争論』を描いた。『戦争論』を出した後は感謝の手紙が膨大に届いていたんだよ。爺さんたちは「やっと子供や孫たちが自分の話を聞いてくれた」「自分たちの思いをやっと代弁してくれる人が現われた」と書いてきたし、子供や孫の世代からは、「祖父を誤解していた」「もっと話を聞いてみれば良かった」と書いてきた。つまり、分断されていた世代を繋いだんだよ。

確かに、それまで自虐史観一色だったところに『戦争論』が出たことで逆バネ効果が働いて、一斉に右傾化していった。加えて、ネットが盛んになったり、日韓ワールドカップ(02年)があったことで、嫌韓感情や反中感情がすごい勢いで広がってしまって。さらに、拍車をかけるように『マンガ嫌韓流』(山野車輪、05年)まで出てきちゃって、あの本に影響されてしまった人間たちがどんどんヘイトスピーチをやるようになって。ただ、そこまでいくと、もうわしの感覚とは全然違う。誤読した読者の勝手な暴走。

わしの本はちょっと売れすぎてしまったんだな(笑)。『戦争論』の読者って100万人以上いると思うんだけど、その中からネトウヨみたいな人間が1万人か2万人ぐらい出てきてしまった可能性がある。9割くらいの読者はまともでも、悪目立ちするやつらが1割でもいれば、そっちの方がうるさいから大人数に見えてしまう。

つまり、戦後の日本において、ナショナリズムの蓋をわしが開けたんだな。それまでは〝ナショナリズム=悪〟とされていた。〝愛国心〟って言葉を使っただけで右翼扱いだったんだもん。ところが、いざ蓋を開けたら、今度はものすごくタカ派の方向に流れていってしまったから、今度はそれをわしが批判するという状況になっているわけだな。

――では、そういった状況認識の下に、小林さんがSEALDsに期待する点があるとしたら、どんなところなのでしょうか?

小林 とにかく、今日、わしが第一に確認しようと思っていたのは、SEALDsがどんな組織かということだよね。先ほどの話では、決して一枚岩の考え方で出来てるわけではないと。憲法に対する考え方ひとつにしても、護憲派のひともいれば改憲派のひともいると。その上で、とにかく、「安保法制は危険なんだ」「今が民主主義を全う出来るか、立憲主義を守れるかどうかの瀬戸際なんだ」って認識の下に集まっているということでしょう?

奥田 そういうことです。

小林 わし、今度、『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日、8月14日放送回「激論!戦後70年の総括と日本の未来」)に出るんだけど。そこで、あなたたちのことを弁護しなければいけない立場にあるから。わしがどこまで言っていいかっていうことを確認しときたかったわけ。

奥田 なるほど(笑)。ええと、「特定の政党がバックにいるんじゃないか」みたいなことは議員のひとからもいつも訊かれるので、あらためて説明しておきたいんですが、SEALDsは全方位外交なんですよ。自民党の人のところにも呼ばれたら行くし、村山元総理にも手紙を書いて会ってもらったし。だから、それがどういう人であっても、「このような、立憲主義を無視した形での安保法制の成立はあり得ない」「安保法制を止める」「立憲主義を守る」という点で一致するならば一緒にやるようにしている。ただ、誰とでも付き合うっていうことは、切り取られ方によっては誤解を招きやすいって点は自覚しています。

この間も、渋谷で街宣(「戦争法案に反対するハチ公前アピール街宣」、6月27日)した時に、民主党、維新の党、生活の党、社民党、共産党の5党から代表が来てくれたんですよ。でも、ネットではなぜか「共産党の志位が来たらしいじゃないか」ってことで、「SEALDsは共産党だ」という話が広まって。

――アンチがあえて曲解しているという印象でしたけどね。

奥田 そうそう。「あー、その程度なのか」とか思いました(笑)。共産党が来るってだけで「関わりがある」と言うようなレヴェルなんだったら、「そうですね」としか返せないですけど。でも、僕らとしては完全無党派でやっていて。その上で、「共産党が(来年夏に行われる)参議院選挙の野党の協力体制には入らない」みたいなニュースが流れれば、「いや、ここで〝独自候補を出すから偉い〟みたいな、そのレヴェルで国民の感情をバカにするようなことはあってはいけないでしょう」って言いに行くし。

小林 SEALDsには党派性も無いと。無党派でやっていると。

――あるいは、国会前で極左がビラを配っていた際は止めてもらったりもしていました。

奥田 中核とか革マルですね。彼らも安保法制には反対してるんですけど、一方で暴力革命をやろうと主張しているわけじゃないですか。だから、SEALDsとしては最初からお断りって言ってるんですよ。いや、ビラ撒きも、国会の外側とか全然知らないとこでやってるなら別にいいけど、目の前で配るのは喧嘩売ってんのかって話で。それで「多様性を排除するのか」とか言われても、「ヘルメット被って、棒で殴るみたいな多様性あるか!」っていう。

小林 薬害エイズの時も同じようなことがあったよ。デモに極左がやって来て、ビラ撒きを始めて若者をオルグしようとするわけ。あんなのカルト宗教みたいなもんだから関わるのは止めた方がいい。

奥田 でも、そこで極左と対峙して気付いたのが、僕らの特徴として「革命をする気がない」っていうことがあるなと。

――革命?

奥田 革命というか、「日本を変えたいんだ」みたいな主張は掲げていなくて。むしろ、「〝国民を守れ〟とか〝平和を守れ〟とか〝憲法を守れ〟とか、〝守れ〟〝守れ〟ばっかり言ってて保守みたいだね」「っていうか保守じゃん?」って話になったり。ただ、「じゃあ旧来の左翼と何が違うのか?」というと、9条よりも立憲主義に根差していて。たとえば、今、欧米だと、「同性婚が合憲か違憲か」みたいな議論もされているわけじゃないですか。それに対して、僕らとしては「もし、日本国憲法に問題があるんだったら改憲したらいいんじゃん」という考えなんです。だから、「国民の権利がもっと守られるとか、もっと自由になるっていうことならば改憲オッケーじゃん」って。それはちゃんとステイトメントにも書いてあります。

小林 それに関してはわしも同じ考えだよ。


〈プロフィール〉

小林よしのり

昭和28年、福岡県生。マンガ家。代表作『東大一直線』 『おぼっちゃまくん』など。平成4年、「SPA!」(扶桑社)にて、社会問題に斬り込む『ゴーマニズム宣言』を連載開始。同シリーズのスペシャル本として発表された『戦争論』 『戦争論2』 『戦争論3』(すべて幻冬舎)は言論界に衝撃を与え、大ベストセラーとなった。平成24年からは「ゴーマニズム宣言『大東亜論』」(小学館「SAPIO」)を鋭意連載中。最新刊は本格的な戦争マンガ『卑怯者の島』
小林よしのりオフィシャルwebサイト

奥田愛基

平成4年、福岡県生。現在、大学4年生。SEALDsの中心メンバーのひとり。
SEALDs webサイト