スペシャル
SEALDs(Students Emergency Action for Liberal Democracy-s――自由と民主主義のための学生緊急行動)による、いわゆる安全保障関連法案に警鐘を鳴らす抗議行動が、さまざまな世代のさまざまな思想の人々を巻き込み、大きな流れになっている。 7月11日、マンガ家の小林よしのり氏が自身のblogにアップした、「シールズとかいう若者にやや好感」というエントリーもその一端だろう。氏は一般的に右傾化の要因となったと評される『戦争論』シリーズの著者だが、現・安倍政権に対しては批判的だ。曰く、「シールズとかいう若者たちは、ちゃんと安保法制の中身を読んで議論してるのだな」「学生運動の時代より、おとなしい若者たちだが、知的である」。はたして、反・安保法制というシングルイシューの下で両者が出会った時、どんな対話が生まれるのか? 8月8日、初の対談が実現した。
奥田 だから、今日、牛田と朝まで話して僕からもいろいろと言ったんですけど、結果的に、彼は来なくて良かったと思うんですよ。
小林 ん? なんで?
奥田 いや、話し合うのは大事ですけど、牛田が最初から謝罪を要求するつもりで来るなら、それは対話じゃないじゃないですか。
小林 そうだね。
奥田 だから失礼ですよね。もちろん、当日ドタキャンすることもめちゃくちゃ失礼だと思うんですけど(笑)。
小林 なんて言うのかな……やっぱり、そういう態度を人に知られた時に誰も支持しないよ。一般人は常識で判断するから、「うわ、ちょっと狂ってるな」という風に見ちゃう。でも、わしは、若いんだしそれで良いとも思うわけよ。平和主義を信じてるんだろうし、戦争を防ぎたいと思ってるんでしょう。ただ、こうやって議論はした方が良いよ。民主主義を信じているのならば、なんでわしを説得できないんですか? じゃあ、わしはエイリアンですか? っていう話になる。わしは辻元清美とだって仲良く出来るよ。
奥田 (笑)。先ほども言いましたけど、彼は小林さんと会って決裂することによって、どういう風に描かれるか気にしたんだと思います。
小林 それはおかしいと思う。自分がどう描かれるかを気にするのは党派性。それじゃあ、個人じゃないよ。どう描かれようと反論していけばいいわけであって。
奥田 そうなんですけど、牛田も、今回、こういう形ではなくて、普通に個人として小林さんと喋るっていうことだったら来たと思うんですね。ただ、この対談が世に出たら、どうしても〝SEALDsの若者〟の意見として読まれるわけじゃないですか。小林さんもブログに「SEALDsの若者と議論することになった」って書いていたし。奥田、牛田、という個人ではなく。
――自分では個人としてやっているつもりでも、周りからは集団として捉えられてしまう。昨晩の牛田さんの「明日はキャンセルしようと思います」というツイートも、SEALDsの意見として即行でまとめサイトに上げられちゃったわけですからね。
小林 そうなんだよー。そうやって出回っちゃってるわけですよ。だけど、当の言われたわしは全然怒ってない。むしろ、若いんだから血が滾りますよと。そういう意味では非常に愛国的な人ですねと(笑)。そう思っているってことでいいじゃない。
――では、牛田さんの意見だけを代弁していても抽象的な話になってしまうので、一方、奥田さんがこの場に来ようと思った理由と、今日の対話の中で感じたことを聞かせてください。
奥田 この場に来ようと思ったのは、やっぱり、〝SEALDsの奥田〟ではなくて、個人の〝奥田愛基〟としてです。個人って、当然、それぞれ意見が違うんですよ。僕と小林さんは意見が違うし、たぶん『ゴー宣道場』にいるひとも、ひとりひとり意見が違いますよね? 冒頭で言ったようにSEALDsもそうで、実際、意見が割れて、今日、ひとり来なかったわけです(笑)。
ただ、僕としては意見が違っても個人と個人として話すことが出来るし、1点で共闘して戦うことだって出来ると思うんです。もし、みんなが同じ意見だったら民主主義じゃなくて、独裁国家でもいいわけじゃないですか。だから、逆に言えば、僕は民主主義っていうのは単なる制度ではなくて、ひとりひとりの意見が違う中でどう生きていくかっていうことを考える能力だと思うんです。そして、今の日本はその能力が低い。特に安倍さんの周りの人たちは非常に低い。期待出来ない。
小林 そうだね。
奥田 もちろん、「個人だから意見が違って当たり前」と言っても、絶対に許せないものはあると思うんですよ。たとえばヘイトスピーチだとか、人を殺すことだとか、戦争をすることだとか。もしくは、ひとによってはもっと瑣末な「あいつだけは許せない」みたいな話かもしれないし。ただ、僕のスタンスとしては、それ以外だったら、どんな政党の人にも会いに行くし、どんな思想の人にも会いに行く。まぁ、「小林さんの『戦争論』は安倍さんにも影響を与えたネトウヨ的なカルチャーの源流のひとつだから許せない」というひともいると思うんですけど、僕は、小林さんが、今、その安倍政権に危機感を持っていて、SEALDsの若者と話してもいいとおっしゃってくださったのならば、ぜひ会いましょうと。ただし、個人と個人として会うので、当然、細かい意見は違いますよと。
だって、僕なんてたった23歳だし、人生の経験が全然足りないし。それこそ、60になったら絶対違うことを言っているだろうし。でも、その前提の上でいま話すべきことがあると思ったので、僕は今日、ここに来ました。
小林 いや、立派だと思います。最近、宮台真司とか東浩紀とかも『ゴー宣道場』にゲストで来てるけど、まぁ、基本的な考え方は違いますよ。違うけど、やっぱり、安倍政権そのものに疑念を持っているというところでは一緒なんです。だからこそ、話し合うことが出来るっていう状態なのね。
わしは誰もが一緒くたの考えになった方が良いとは思わないし、あるいは、考えを転向したって良いと思っているから。あと、繰り返しになるけど、若い人は危ない。今も攻撃されているだろうし、これから先ももっと攻撃されるかもしれない。それで、実際に会ってみて、特に党派性とか極左に取り込まれているような実態がないんだったら、ちゃんと擁護したいと思ったから会いに来たの。
たとえば、もし、悪く言う人がいた時に「いや、彼らはそういう人たちじゃないよ」と。わしが言うだけでけっこう効く場面はあると思いますよ。そう言えるようになったから、今日、会ってすごく良かったと思います。
奥田 最後にもうひとつ言わせていただくと、僕はカルチャーそのものも変えないといけないと思うんですよ。
小林 ほう。
奥田 これは僕なりの見方なんですけど、90年代に経済状況が安定しなくなって、自民党でさえも社会保障の面倒を見るのを止めて新自由主義に走ろうとしていく中で、2ちゃんねるみたいなものが出来て。『戦争論』が刊行されて。小林さんの意図とは違ったのかもしれないですけど、『戦争論』に影響を受けて『嫌韓流』なんかも出てきて。それに対して、オールド・リベラルはバカにしてたと思うんですよ。「ネットとかマンガで何言ってんの?」みたいな。でも、結果、ちょっと前の2ちゃんとか、今だったらニコ生とか、すごく冷笑的で、誰かのせいにし続ける上に責任を取らないカルチャーが日本で大きくなって。終いには、日本の経済がダメなのは在日特権があるからだって言うような人たちまで出てきて。しかも、その人たちに応援される形で安倍さんが首相になって。僕はそういうカルチャーをバカにせずにちゃんと対抗していかなきゃいけないと思うんですよ。あるいは、もっと引き受けるカルチャーをつくらないといけないと思うんです。だって、震災以前だったら在特会がいちばんデモをやっていたんですよ。それをオールド・リベラルも「どうしようもないね、あの人たち。まぁ一部だもんね」と冷笑して、実際に政治に影響を与えるまで放っといたんですもん。だから、僕はこの負の連鎖みたいなものを断ち切って、新しいカルチャーをつくりたいんです。それが僕なりに思うことですね。
小林 うん。いいんじゃない。若い人がずっとカルチャーをつくってきたんだもん。昔はもっとサブカルチャーって華々しかったよね。今のようにカルチャーそのものが貧しくなってしまった時代っていうのは、ないよ。60年代、70年代、80年代、90年代、00年代 と見てきて、現代がいちばんカルチャーが萎んでしまっている。「今の若者って楽しいのかな? こんな世の中で」ってよく思ったりするよ。だから、SEALDsには期待しています。
――残念ながら、もう時間です。
小林 また話しましょうね。
奥田 よろしくお願いします。
対談日時:2015年8月8日@渋谷
text:磯部涼 photo:江森康之 editorial:北尾修一
〈プロフィール〉
- 小林よしのり
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昭和28年、福岡県生。マンガ家。代表作『東大一直線』 『おぼっちゃまくん』など。平成4年、「SPA!」(扶桑社)にて、社会問題に斬り込む『ゴーマニズム宣言』を連載開始。同シリーズのスペシャル本として発表された『戦争論』 『戦争論2』 『戦争論3』(すべて幻冬舎)は言論界に衝撃を与え、大ベストセラーとなった。平成24年からは「ゴーマニズム宣言『大東亜論』」(小学館「SAPIO」)を鋭意連載中。最新刊は本格的な戦争マンガ『卑怯者の島』。
・小林よしのりオフィシャルwebサイト
- 奥田愛基
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平成4年、福岡県生。現在、大学4年生。SEALDsの中心メンバーのひとり。
・SEALDs webサイト