スペシャル
*特別マンガ『ピコピコ少年』特別篇は、当ページ後半に掲載!
【PART 1】
“ノスタルジックゲーム漫画”として並び語られることも多い『ピコピコ少年』と『岡崎に捧ぐ』。実際、著者の押切蓮介さんと山本さほさんは子ども時代を過ごした地域が近く(神奈川県川崎エリア)、その作品世界で描かれる原風景にはどこか相通じる感触があります。そこで編集部ではゲーマー漫画家双璧によるガチゲーム対談(&対戦)を2回にわたり決行。まずはPART 1、川崎の有名ゲーセン<ウェアハウス>での約2時間の対決後の対談です。
ゲームの思い出と友達はワンセット
――山本先生の周りに、そういうゲーム話を同じレベルでできる方っていました?
山本 女性ではいないし、男性でもほとんどいなくて。(『岡崎に捧ぐ』に登場する幼馴染みの)杉ちゃんもゲームはしないので。
押切 (『ピコピコ少年』に登場する幼馴染みの)山田くんは「にわか」です。ゲームはするけど、超下手くそ。
山本 (編集部から)次はお互いの幼なじみ同士を呼んで家庭用ゲームで対戦って提案があるんですけど、大丈夫ですかね?
押切 いい勝負になると思いますよ。でも、山田くんに1回だけ泣かされたことあります。僕は3Dの格ゲーが得意じゃなくて、『鉄拳』や『ソウルエッジ』で1回も勝てなかった。50戦50敗はしましたね。
山本 輝いたんですね。山田さん。
押切 18歳~19歳頃で、山田くんが一番輝いてた時期ですよ。それで僕が泣くっていうね。奴は「俺のほうが上なんだ」って心のどこかで思ってますよ。
――『岡崎に捧ぐ』の岡崎さんは、いつ頃からゲームをやらなくなったんですか。
山本 岡崎さん、基本的には私がゲームやるのに付き合ってただけだから。高校卒業してからは、ほとんどやってないと思いますね。
――ゲームじゃなくて山本先生が好きだったっていう。
山本 たぶん。『ツインビー』は岡崎さんと二人でずっとやっていて。一度、岡崎さんがウチに来た時に『コール オブ デューティ』をやらせたんですが、やっぱり(操作がわからず、視点の方向が)空を向いちゃって。一歩も動かず、その場で固まってましたね。
押切 いいなあ、岡崎さん。僕にもそういうキャラクターが欲しい。山田くんじゃ事足りないですよ。僕に岡崎さんをください!
山本 いります? 杉ちゃんだったらいいかな。
押切 杉ちゃんも欲しい。山田くんとトレードしませんか。
――「友達とゲーム」はセットで覚えてる感じですか。
押切 そうですね、山田くん家でしょっちゅうゲームやってたから。僕がスーパーでバイトしてたときに、店の近くに山田くん家があって、帰りに必ず行っていて。高校の頃から卒業後の2年ぐらい、ずっと一緒にやってましたよ。ゲームハードをほぼほぼ持ってて、金持ちだったんで。
山本 押切先生、『カルドセプト』はやったことありますか? 私は高校生の時、夏休み中ずっと岡崎さん家に泊まりこんでやってて。カルドセプト合宿ですよ。これがふだんゲームやってない人とも、いい勝負になるんですよ。運の要素もあるし、スピード感もないから、頭を使ってじっくりやれる。「せーの!」ってカードをお互いに出すんです。
押切 僕も山田くん家に泊まり込みましたよ。『RPGツクール2』でずっとRPGを作ってて、誰にやらせるかっていったら山田くんしかいないわけですよ。大変なんですよ、文字も1個1個、十字キーで選択して文章を作っていくわけですよ。「さあ山田くん出来たよ、これは『クロノトリガー』に影響された新しいゲームなんだ」って。その時点で首をかしげてやるんですけど、実際やると「甘いよここは」って駄目出ししてくるんですよ。
山本 私も中学生のとき、岡崎さんのためだけに『RPGツクール』でせっせと作ってやらせてたんですよ。まったく一緒ですね。ゲームの中に、クラスメイト(をモデルにしたキャラ)が出てくる。そういう自分の作ったもので他人を楽しませようっていうのが、マンガ精神の延長なのかな。
――どんなストーリーだったんですか?
山本 クラスメイト連続殺人事件。クラスメイトが本名で出てくるんですよ。でも、一人ずつ殺されていく。結局、犯人は結局校長先生なんですよ。
――今でいう『人狼』みたいですよね。
押切 なんか作ってるものが一緒でびっくりしますね。『サウンドノベルツクール』ってあったじゃないですか? あれで、山田くんのためにサウンドノベルを作ったんですよ。
修学旅行に置いて行かれた高校生が、自転車でクラスメイトを追いかけるゲーム。そこで殺人鬼オフ会に紛れ込んじゃって、最終的に犯人が校長なんですよ。
――どちらもラスボスが校長先生という。
山本 でも私の場合は黒幕がいて、それは教頭なんです。裏で校長を操っていて。
――なんとなく、その後のお二人の作風に通じてる気がしますね。
押切 やらせた友達が喘息起こすくらい笑ってて、あれで自信がつきましたね。自分には笑いのセンスあるんだって。
山本 やっぱり、楽しませるのが好きなんですね。
押切 そうそう。一人か二人しか遊んでくれる人がいないのに。
山本 私も結局、岡崎さんにしかやらせてない。一人でも楽しんでくれる人がいればうれしいんですね。
――マンガづくりでもゲームでも、「友達」は大切な存在なんですね。
山本 私のマンガも最初は岡崎さんだけに向けて作って、それが今に至っていて。
――どんな感想を言われました?
山本 岡崎さんは褒めるだけです。駄目出しなんてされたことない。
押切 優しい子なんですよ、すごく。山田くんはまったく褒めてくれない。
――男友達はシビアなんですかね。山本先生の場合も、杉ちゃんは厳しいことを?
山本 杉ちゃんは元々が女の子っぽくて、私のことをヨイショしてくれた人なんですよね。そういう周りの人に囲まれて調子に乗せられて、マンガを描き続けてきて。
押切 大切ですよ、それは。僕は調子に乗せてもらえなくて、自分の作った自主映画を見せたら、(早送りして)飛ばしやがるんですよ。で、「どうだった?」って聞いたら「うーん」とか反応が生々しかったですよ。高校生の頃から、まったく変わってないです。
山本 そもそも、私が漫画家になったのも、杉ちゃんにマンガを描けって言われたことがきっかけなんですけど。でも、10年ぐらいマンガを描いてなくて、岡崎さんに相談したら「山本さんならマンガ家になれるよ」って言ってくれて。
押切 やっぱ、友達を交換しましょうよ。山田くんいらない。
――山田くんが厳しかったから、押切先生もタフになったんじゃないですか?
押切 それはそれで精神力がついたかもしれない。
――山本先生は、今も杉ちゃんや岡崎さんに相談を?
山本 そうですね。「ファミ通」の連載(『無慈悲な8bit』)も、最初の頃は自信がなくて、杉ちゃんに毎回見せてたぐらい。そうしてワンクッションを挟むと褒めてくれるから、自信が出てくるんです。
押切 それは信用できる親友ですよ。僕が山田くんと同じことやってたら、一生デビューできていない。
山本 でも、二人とも長い付き合いだから、わかってるのかもしれないですね。背中を押してもらいたくて見せてるとわかったうえで、押してくれてるって感じでしょうね。
押切 つい最近なんですけど、山田くんが僕の『ミスミソウ』を読んだみたいで、面白いっていう前に「これ映画化しようよ」って言うんですよ。たぶん彼なりの褒め方で。
「じゃあ山田くん映画化してくれるの?」って言ったら、「学校と生徒を用意すればなんとか行けるっしょ」と。すごい適当なんですよね。
『ピコピコ少年』、『岡崎に捧ぐ』に対して敗北宣言!
押切 いやー、それにしても『岡崎に捧ぐ』に完敗ですよ、『ピコピコ少年』は。
山本 いやいや、それは全然ないですよ。
押切 やっぱり『ピコピコ少年』にはできなかったことを成し遂げたのは認めなきゃいけない。今度『ピコピコ少年』の4作目で、『岡崎を捧ぐ』を超えたいって話をしてて。
次は友情の話、ヒューマンドラマにシフトチェンジしようと思いまして。で、いろいろ青春時代の友人関係を思い出してみたんですけど、絶交したり喧嘩して仲違いしたり、そんなのばっかりなんです。美談が一個もない。
――最初の巻ではゲームボーイをめぐって殺し合いになりかけてましたよね。
押切 なりました。やはり越えられない壁を見てしまいました、だから割り切りましょう。
――『ピコピコ少年』のゲームで絶交する話に癒される読者もいるはずです!
押切 でも、さほ先生は記憶力がすごいですよ。よくあんなに覚えてるなって。
山本 全部、岡崎さんのおかげなんですよ。岡崎さんの記憶力がすごくて、会うたびに「小学生のとき、こんな面白いことしてた」って話をしてくれるんですね。それをずっと言われ続けたから覚えてただけで、もしも岡崎さんが転校していなくなっていたら何も覚えてなかった。
押切先生、リベンジを誓う!次回の対戦に向けて
――改めて今日の対戦を振り返っておきましょうか。
押切 僕の1勝3敗です。UFOキャッチャーで負けて。『ストⅠ』で僕が勝った後、次の『ギャラガ』で負けて。で、メダルゲームで最後の6枚を隠し持たれて負けて。
――メダルゲームはお二人とも0枚かと思ったら、切り札が出てきましたね。山本先生はそういう意味でも「持ってる」感じですよね。押切先生にとっても手強いライバルですよ。
押切 どうやったら勝てるんだろう? 次は家庭用ゲームでやりましょうよ。
山本 うん、幼なじみ同士を連れてきて対戦させましょう!
〈プロフィール〉
- 押切蓮介(おしきり・れんすけ)
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1979年生。1998年『ヤングマガジン』でデビュー。著作に『ピコピコ少年』 『でろでろ』他多数。現在『ピコピコ少年』 『ハイスコアガール』(「ビッグガンガン」)、『ぎゃんぷりん』(「漫画アクション」)、『狭い世界のアイデンティティー』(「モーニング・ツー」)等を連載中。
- 山本さほ(やまもと・さほ)
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1985年生。2014年、『岡崎に捧ぐ』をウェブサイト「note」に掲載し話題に。2015年より「ビッグコミックスペリオール」で『岡崎に捧ぐ』連載開始。現在同作の他、『無慈悲な8bit』(「ファミコン通信」)連載中。