スペシャル
『年収90万円で東京ハッピーライフ』の著者・大原扁理さんは、昨年秋から台湾へ移住して「隠居」生活を実践中だとか。そんな大原氏が久しぶりに帰国したというので、前から会ってもらいたかった小池龍之介氏(月読寺住職)と対談していただきました。「世間からは一定の距離を取って生きる」と若くして考えたおふたりが語る、お金とは? 幸せとは? 死とは? たいへん興味深いお話をうかがうことができましたので、ぜひお読みください。
小池 今は台湾にお住まいだということですか?
大原 そうなんです。
小池 向こうでは何をしておられるんですか?
大原 「隠居」してますね。
小池 ああ(笑)。その、台湾にたどり着いた流れといいますか、台湾がいいなって思ったのはどんな部分なんですか?
大原 それまでは、私、6年ほど東京で「隠居」していたんですけど、海外でも同じような生活ができないのかな? とずっと思ってたんです。そしたら、私の本が台湾で翻訳されるっていうお話をいただきまして。それで、台湾には1年間滞在できるワーキングホリデーという制度があって、30歳まで申請ができるんですが、そのときちょうど30歳だったので「こりゃあちょうどいいや」と。
小池 今もそのワーキングホリデーで台湾に滞在していらっしゃる?
大原 そうです。
小池 どうですか、台湾は。
大原 東京に住んでいた時は、物価も高いし、冬は寒いし、世間の目は厳しいし、低所得でサバイブするために、もっといろいろなことを考えていた気がするんです。台湾に引っ越したら、物価は安くて、気候も良くて、日本ほど同調圧がない。マンゴーとかスターフルーツの樹もその辺にじゃんじゃん生えていて……日に日にバカになっているような気がします(笑)。
小池 すごくいいと思う。
大原 あ、台湾の方全般がそうだというわけではなく、あくまでも自分の話ですが。
小池 せっかく台湾で隠居されていますのに、日本に帰ってこられますとちょっとお忙しいですか?
大原 うーん。東京に帰ってくると、心が忙しい感じがします。文字とか、音とか、情報が多すぎて、意識がそちらにひっぱられて疲れるというか。エスカレーターの手すりにまで何か書いてあると、もうほっといてよーと思います。東京というより、都心が特にそうなのかもしれませんが。
小池 ああ、それはそうですね。
大原 日常はなるべく刺激の少ないところにいて、心を常に遊ばせておく生活なんで、よけいにそう感じますね。昨日、買い出しに行ったんですけど、同じものを買うんでも、台湾って種類があんまりないんです。たとえばコップひとつ買うのにも、日本では形、色、デザイン、大きさ、選択肢が無限にあるじゃないですか。昨日は本屋にも行きたかったんですけど、途中で力尽きて帰りましたよ。あと、「東京がいかにお金を使わせるようにデザインされているか」みたいなことにも気がついてしまって。
小池 なるほど。そうかもしれませんね。私も先日、羽田空港で財布をなくして、ふと思ったのが……。
大原 え? 財布?
小池 ええ。飛行機の中に財布を置いてきてしまったんですけど、「まあ財布は後回しにして、とりあえず帰ろうかな」って思ったんです。
大原 あははは(笑)。
小池 後から問い合わせればいいや、と。ただ、そこで、「あ……お金がないと電車にも乗れないんだ」って。
大原 そこでやっと気づかれたんですね(笑)。小池さんのような生活をされていると、普段お金ってあまり使われないですもんね。
小池 そんなに積極的には使わないですね。あ、でも、エンゲル係数は高いような気がします。よく外食もしたりするので。ただ、食事以外に使うお金はほぼゼロなんじゃないかという気がしますね。
大原 食は大事ですよね。
小池 普段、移動しているときは、お金を使っている自覚がそんなにないんです。Suicaっていうやつをパッと当てていくだけなので。なくさないと「お金がないと移動もできない」ってことを忘れてますよね。
大原 財布、いつなくされたんですか?
小池 つい最近です。4日前ぐらい。東の道場はここ(鎌倉・月読寺)なんですけど、今、西日本の道場の候補地を探していて。おそらくご存知ないと思うんですが、前島っていう山口県の離島があって。最盛期は200人ぐらい人口がいて、当時はたぶん店もあったと思うんですけど、今は5世帯7人。
大原 へえ~。
小池 その人口ですから、商店なんか作ってもまったく利益が上がらないでしょう。お店も、自販機も、公衆電話すらないので、その島にいる間は日本国貨幣が完全に無効化されてしまうんです。
大原 海外で、財布に日本円が入ってても「使えんわこれ」みたいな感じ?
小池 そうかもしれませんね。そういう島に新しい道場を構えることになって。そこで3日間ぐらい、準備をしたりしていたんですが。ただ、本当に1円も使えないので、食べ物をもし買いたければ、1日3往復しかしてない連絡船に乗らなければならないのでハードルが高くて。そういう場所から東京に戻って、鎌倉に戻ろうとしたら財布をなくしてしまって、「ああ、移動するにもお金が必要なんだ」って。
大原 前島にいるときは財布を取り出さないですもんね。そりゃ忘れますよね。
小池 ああ、なるほど。だから忘れてしまったのかもしれない。
〈プロフィール〉
- 大原扁理
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1985年、愛知県生まれ。2016年秋より台湾在住。高校卒業後、3年間ひきこもり、海外ひとり旅を経て、現在隠居生活6年目。著書に『年収90万円で東京ハッピーライフ』、『20代で隠居 週休5日の快適生活』。
- 小池龍之介
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1978年、大阪府生まれ。月読寺住職。東京大学教養学部卒業後、2003年にウェブサイト「家出空間」を立ち上げる。『考えない練習』 『超訳ブッダの言葉』 『こだわらない練習』 『貧乏入門』 『しない生活』 『平常心のレッスン』など、著作多数。