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撮影=あさみあやこ

『年収90万円で東京ハッピーライフ』の著者・大原扁理さんは、昨年秋から台湾へ移住して「隠居」生活を実践中だとか。そんな大原氏が久しぶりに帰国したというので、前から会ってもらいたかった小池龍之介氏(月読寺住職)と対談していただきました。「世間からは一定の距離を取って生きる」と若くして考えたおふたりが語る、お金とは? 幸せとは? 死とは? たいへん興味深いお話をうかがうことができましたので、ぜひお読みください。

同調圧と「やわらかさ税」

【対談】大原扁理×小池龍之介

【対談】大原扁理×小池龍之介

大原 先ほど、ここ6年間ぐらいずーっと年収100万円以下だという話をしたと思うんですけど、昨年(2016年)ついに年収が103万円を超えたんですよ。おかげさまで『年収90万円で東京ハッピーライフ』をたくさんの方に読んでいただけたので。

小池 よく知らないんですが、年収103万円以下だと税金を払わなくていいんですか?

大原 所得税がかからないんです。私も隠居してから初めて知ったんですけど、「最近、所得税の通知が来ないなー」と思っていたら、どうやらそうだったらしくて。途中で気づいたんです。で、それを本に書いたら、一部ネットで袋叩きですよ。

小池 ああ。非国民、的な?

大原 たぶんそんな感じですね。

小池 その批判についていえば、税金を納めないけど、なんて言いましょうかね。世の中の同調圧力に負けない人が一定数いるおかげで、同調しまくってる人がまあ仮に怒っているにしても、かろうじて社会全体がパンクしない程度のゆるやかさが保たれているとも言えますよね。

大原 ああ。

小池 社会にそういうゆるやかさがなくなってしまうと、税金を払っていない人たちからは自分は何も恩恵を得てないって思ってる人ですら、もっと圧が強くなって、がんばりすぎてパンクしちゃうはずですからね。ですから実はその批判はたぶん当たらなくて、税金を納めていないかわりに、形にならない「やわらかさ税」みたいなやつを、国とか社会に対して払ってはいると思うんですよ。それはお坊さんが生産に関わっていないということに関しても、同じようなことが言えると思うんですけど。

大原 たしかに、社会の役に立つことが納税だけみたいな感じだと、そういうシステムに合ってない人はどうすればいいんだって苦しくなっちゃいますよね。ただ、私は税金を払わないとか、週休5日とか、年収90万円っていうところに目的を置いてるわけではないので。自分が毎日快適にいられることを優先していたら、結果的にこうなったという話なんです。それで私は、税金については、毎月キッチリ払えるのはもちろん理想だとしても、払えない時期があってもいいと思っていて。トータルで見ようと思っているので、そんなに焦ってはいないんです。だって長い目で見たら、何かの間違いがあって、最終的に批判してる人たちより多くの税金を私が払っちゃう可能性だってあるじゃないですか。って考えると楽しくなってきちゃう。そう、だから何が言いたいのかというと、税金フツーに払う気満々なんだけどなーっていうことなんです。

小池 でもわざと払わないようにしているかのように見たくなってしまう人もいて。そのように見られると気分が悪いかもしれないんですけど、一見するとその人たちは怒ってるように見えて、ある観点からすると、その人にとっては大原さんがいないとダメなんですよね。

大原 え、いや……めんどくさいです(笑)。

小池 あなたがいないと自分自身から目を逸らすことができないので。だから、まあそういう怒ってくる人も愛すべき、あなたを求めてくるファンだと思って、よしよしと。

大原 マジですかー。

小池 なんせ本当、大原さんがいなくなったら、その人たちはどうやって現実から目を逸らすことができるのか。

大原 うーん。たしかに私も昔いじめられていたときにネットがあったら、ネットで呪詛の言葉とか吐きまくって憂さ晴らししてたかもしれません。ネットで悪口のひとつも言わんと、やってられん状況もありますよね。

小池 そうです。

大原 そうか。じゃあ、まあ、どうぞ。

小池 みんな追い詰められているんですね。同調圧力が強すぎて、同調しすぎてるから、あまりにもしんどいので、自分はこんなにがんばって同調してるのに、同調してないやつがいるのが許せん、っていうのが本音だと思うんです。

大原 自分が同調しないでいいほうに、ちょっとずつ行ってみればいいのに……。

小池 もしかしたら行くチャンスはあるんだけど、そのチャンスは怖いことなんですね。ただ、そうやって叩いてるような人は、何らかのきっかけがあって、本当の自分の気持ちの中で見ないことにしてる闇の領域に、ふっと行き当たったりして。今、せっかく同調してそれなりにうまいこといってるように見えていても、同調してるのにうまくいかなくなったりしたような瞬間に、案外ふっと真逆のほうに振れて、あなたの元にに弟子入りしに来るかもしれませんよ。

大原 断ります。

小池 (笑)。


〈プロフィール〉

大原扁理

1985年、愛知県生まれ。2016年秋より台湾在住。高校卒業後、3年間ひきこもり、海外ひとり旅を経て、現在隠居生活6年目。著書に『年収90万円で東京ハッピーライフ』『20代で隠居 週休5日の快適生活』

小池龍之介

1978年、大阪府生まれ。月読寺住職。東京大学教養学部卒業後、2003年にウェブサイト「家出空間」を立ち上げる。『考えない練習』 『超訳ブッダの言葉』 『こだわらない練習』 『貧乏入門』 『しない生活』 『平常心のレッスン』など、著作多数。