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撮影=あさみあやこ

『年収90万円で東京ハッピーライフ』の著者・大原扁理さんは、昨年秋から台湾へ移住して「隠居」生活を実践中だとか。そんな大原氏が久しぶりに帰国したというので、前から会ってもらいたかった小池龍之介氏(月読寺住職)と対談していただきました。「世間からは一定の距離を取って生きる」と若くして考えたおふたりが語る、お金とは? 幸せとは? 死とは? たいへん興味深いお話をうかがうことができましたので、ぜひお読みください。

今日死んでもいいように生きる

【対談】大原扁理×小池龍之介

大原 あの、せっかくなので訊きたいことがあるんですけど。小池さんのようなお坊さんでも、死ぬのって怖いんですか?

小池 今の精神状態なら、いきなり死ななきゃいけなくなっても、大丈夫だと思います。

大原 おお。

小池 大丈夫じゃない時もあるので、どうにかいつも瞑想をして、今のような精神状態が保てているといいなと思うんですけど。実はね、仏教のメインの関心のひとつが、死への恐怖を克服することでして。

大原 あ、そうなんですか。

小池 たとえば、ジェットコースターのようなものと表現してもいいと思うんですけど。いつも乗っているジェットコースターを降りるというか。でも、降りてみると、降りて別世界に行くって感じではなくて、そのジェットコースターを成り立たせているベースの部分に心がどーんと落ち着くっていう感じです。そうすると、表面で心が気持ち良かろうが苦しかろうが、そのベースの部分はまったく影響を受けなくて、完璧に幸せなんです。さて、では死ぬっていう現象はどっちで起きると思いますか? このベースのほうとジェットコースターのほうと。

大原 そりゃあ、ジェットコースターでしょう。

小池 そうなんですよ。なので、このベース感覚がわかってくればくるほど、死んでもベースの幸福は打撃を受けないことがわかって、「あ、大丈夫だな」となる。そういう精神状態になると、他人から批判されることとか、けがや病気に苦しむこととか、老化すること、歯が痛むことも全部、にこにこしてくるというか。そんな感じ。

大原 え、歯が痛いのはイヤです(笑)。

小池 なぜ痛いのを嫌がるかというと、痛みは死のほうに近づくことだから、脳が生きるために、痛みという刺激に抵抗を感じるようにできているんです。ジェットコースターで起こっていることは、全部脳みそが勝手につくりあげたマジックみたいなものなんです。

大原 そのジェットコースターっていうのは、具体的にはどんなことですか?

小池 先ほど申し上げたような死・痛み・病気などの、いわゆる世間的な刺激の強いことだけではなくて、かなり厳密な意味で、たとえば「お水が飲みたい」とか「今日は温かいな」とか「体調がいいな」とか「楽しいな」とか、そういうようなことです。

大原 ほぼ全部じゃないですか!

小池 あっはっは。

大原 いつもまあ毎日、今日死んでもいいかなって思って生きてますけど、毎日歯が痛かったらつらそうです。痛いものは痛い……。

小池 大原さんも瞑想してみますか?

大原 瞑想ですか。

小池 瞑想、したことありますか?

大原 ないんですけど、でも部屋ですごくリラックスしてるときとかに、一切の感覚がなくなることがあります。なんていうのかな。自分が今までどういうふうに生きてきて、どういう人間で、っていうことが存在しないような世界に行くというか。

小池 そのときは心が純粋に今を楽しんでいるでしょう。ある意味、そうやって今この瞬間に心を置くことが、瞑想の出発点です。

大原 そういうことが時々あるんです。でも、歯が痛くてそれができるかといったら自信がないです。

小池 歯が痛いときは「痛くなくなるといいな」「どうすれば痛くなくなるんだろう」っていう具合に、未来に心が飛んでしまうかもしれませんね。

大原 歯痛じゃないんですけど、そういえば最近、ちょっと心の調子が悪いときに、何にもやる気が起きなかったので、「何にもやる気が起きないなー」と思って、しんどかったんですけど、実際何にもせずに2~3週間放っておいたんです。そしたら治って。なんか、こんなもんかって。そういうことですか?

小池 そう。追い立てないことなんですね、とにかく。そこで無理やり何かをしよう、対処の仕方はこうだろうかってし始めると、要はやる気の出ない自分にビンタをして、「あんた何をしてるんだい、早く動かないと承知しないよ」とか言って追い立ててるようなもので。そういうことをされると、憂うつな気持ちが増えていってしまいますからね。何事も、そのとき起きていることの中に留まっていれば、エネルギーが尽きたらそれは終わっていく。

大原 でも、私が何もやる気がしないときに、何もしないでいられるのって、あんまり働いてないからじゃないですか、物理的に。世の中の人ってそうじゃないと思うんです。でも、小池さんからすれば、世の中の普通に働いている人も、心のコントロールのいかんによっては……。

小池 できます、できます。その「何もやる気がしない」っていうときのやる気が、仕事に行く気力もないぐらいのやる気のなさだったとして……。

大原 でも、私の場合、起き上がる気力もなかったんです。シャワーも1週間ぐらい浴びれなかった。

小池 ああ、なるほど。そうすると、働きながらそれを実践するのは難しいかもしれませんね。そのときはもう休むか、無理をして仕事に行くかって話になっちゃいますよね。
 さっき言ったような、ベースの「絶対的な幸せ」に心がいると、やる気がわかないっていうような時間は、基本的には出てこない気がするんですよね。基本的にとにかく、体がものすごく活力に満ちてきて、歩く速度も速くなりますし、姿勢はしゃきーんとした感じになるというか。

大原 本当ですか。じゃあ、落ち込むこともあんまりなく?

小池 あんまりというか、まったくないですね。

大原 小池さん、たぶんすごくお忙しいと思うんですけど、その多忙な毎日の中でも、常に心が穏やかでハッピーっていうことですよね。

小池 それに「うん」って言えればいいんですけど、そうなるように多少、調整の努力みたいなのをしていて。一定以上忙しくするとうっかりジェットコースターに乗ってしまっているときがあります。そこに間違えて乗らないための訓練が、とにかく継続的に必要で。

大原 訓練というのは、何をするんですか?

小池 1日何時間かとにかく瞑想し続けて、それをひたすらしみこませることによって、瞑想してない時間もジェットコースターから降りてる感じなんですよ。そのために、午前中は基本仕事を入れないです。

大原 そうなんですか。瞑想してるんですか。

小池 そうですね。基本、朝は瞑想だけして過ごして。

大原 やっぱり、小池さんみたいなお坊さんでも、毎日の微調整っていうか……。

小池 そう、すごく大事。

大原 慣れることはない?

小池 そうですね。なにぶんそうしていないと。「今死んでも悔いることがない」っていうのが、それ以上大事なことはないと思っているので。

大原 そうか。だから、私もなんか、今日死んでもいいなって基本的に思ってるんですけど、なんか死ぬの怖いって思う時もあって。それでいうと、普段はベースのところにいるけど、たまにうっかりジェットコースターに乗ってる感じかもしれません。でも大抵の場合はベースのところにいて、死ぬのがちょっと、なんていうのかな。わくわくする。

小池 わくわくするんですか?

大原 します。太平洋の向こうに何があるのっていうのと同じ好奇心だと思うんですけど。死にたいわけではないんですが、死んだらどうなるのかをちょっと体験してみたいような気がします。
 なんで死ぬのが怖いですかっていう話をしたかって言うと、今、泊めてもらってる友達の猫が最近、寿命で死んだんですよね。その猫が死んだときの話にすごく感動して。かなりの老猫で、少し前から様子がおかしかったから、友達もまあそろそろ時期かなとは思っていたんですって。それで、亡くなる2日前ぐらいに目を開いたまま、ずっと寝てる状態になってて。ぱっと見、本当に死んでるように見えるんですけど、心臓に耳をあててみるとちゃんと心臓の鼓動がするので、ああ生きてるなと。で、あるとき、仕事から帰ってきたら、かなり呼吸が荒くなってたので、ああいよいよだなと思って、心臓の鼓動をね。猫の心臓の鼓動ってすごい速いんですって。トクントクントクンって。それがどんどんゆっくりになっていって、最後の一音までちゃんと聞かせてもらったっていう話を聞いて。悲しくも怖くもなくて、きちんと死んでいく命に対して、拍手したいような不思議な気持ちになったっていうんです。なんか死ぬってそうだよなと思って。ただ本当に死ぬっていう事実だけがあるような感じで、私は死にたいと思ったんですよね。動物のように。だって死ぬのを怖いって思うの、人間だけな気がするんですけど。

小池 たしかに老衰に対する恐怖って、動物はそんなにないですね。他の生き物に襲われることに関しては相当警戒して、人間以上に怖がって生きてますけど。

大原 ああ。私、死っていうときに老衰しか思い浮かべてなかったです(笑)。おめでたいですね。

小池 大原さんも老衰以外の死に方をする可能性はありますよ。

大原 そのほうが確率高いですよね。

小池 たとえば「おまえ週2日しか働かないでハッピーに生きられるとか、嘘つくんじゃねえ」とか言われて、刃を刺されて殺されるとか。あとは、たとえばですけど戦争に巻き込まれるとか、交通事故で車に轢かれるとか、大地震とか、はたまた癌っていう可能性も……。

大原 老衰でお願いします!(笑)

(つづく)

『年収90万円で東京ハッピーライフ』
著者:大原扁理
発行:太田出版

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●堀江貴文氏、共感!
“親も先生も信用してはいけない。就職しなくても生きていける。終身雇用なんて期待するな。世間の常識は疑ってかかれ。同調圧力や空気に負けるな。人生は一度きり。他人に自分の運命を左右されるのは御免だ。など、僕と考え方はほとんど同じだ。「働かざるもの食うべからず」なんて、古い。”

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〈プロフィール〉

大原扁理

1985年、愛知県生まれ。2016年秋より台湾在住。高校卒業後、3年間ひきこもり、海外ひとり旅を経て、現在隠居生活6年目。著書に『年収90万円で東京ハッピーライフ』『20代で隠居 週休5日の快適生活』

小池龍之介

1978年、大阪府生まれ。月読寺住職。東京大学教養学部卒業後、2003年にウェブサイト「家出空間」を立ち上げる。『考えない練習』 『超訳ブッダの言葉』 『こだわらない練習』 『貧乏入門』 『しない生活』 『平常心のレッスン』など、著作多数。