スペシャル
1
取材・構成=門倉紫麻
40代女子が直面する切実な問題に、連載中からたくさんの共感の声が届いていた、雁須磨子によるマンガ『あした死ぬには、』。愛読者であり、多子や塔子と同世代である40代女子3名に集まってもらい、思うまま語り合う座談会を開催。前編では「体問題」「おばさん問題」そして「梅木問題」に迫ります。読むうちに、思わず「わかる!」と参加したくなってきます……!
(一部ネタバレを含みますので、ご注意ください)
【座談会参加者】
◆Aさん ウェブ編集者・独身(子ども2人)・41歳
◆Bさん 映画宣伝・独身・44歳
◆Cさん ウェブディレクター・独身・42歳
体の不調を気力で乗り越えられなくなるのが40代
――まずは、本作を読んでどんなことを感じたか、それぞれお聞きできますか?
A 読みながらずっと「わかる」ばっかり言ってました。
B そう、わかるばっかりですよね。
C 雁さんの描き方が、本当にうまくて。風通しがいい、というか。
B 切実なんだけれど、そこまで追い詰められている感じもしない描き方ですよね。
A 「大変だよね」って共感はするけど、苦しい感じは全然ない。
B 「先のばし癖」がある、というところもすごく共感したんですけど(笑)、やっぱり40代の体問題について描かれている部分が特に印象に残っていて。
A 私もです! 体の不調って、いきなりきますよね。
C 急ですよね……。
B 多子みたいな更年期の症状はまだないんですが、夜中に動悸が止まらなくなって、救急車で運ばれるところは身につまされましたね。私も2回くらい体を壊しているので……。
B その時は親に「もうこれ以上仕事をするな」と言われて。確かに親を泣かせてまでする仕事なのか、と自問自答するところはありました。
A そうだったんですね……。
B 私も多子と同じで映画宣伝の仕事をしているんですが、今はわりと楽なポジションにいて。もし今も多子みたいにがっつり作品担当をするような立場にいたら、「体問題も抱えて、いつまでこのペースで仕事ができるのかな?」って絶対に考えていると思う。40代になると親とか家族の事とも、バランスをとりながらやらなきゃいけなくなってきますしね。
A・C うんうん。
B 30代でクリアしたハードルよりもさらに高いハードルがいつも待っているなと……これを越えたら次、越えたら次っていうのがどこまで続くんだろうと思ったりもします。
A 私は39歳の夏に体の不調がきたんですけど、普通に洗濯ものを干していたら「首ぎっくり」になったり、冷房が急にしんどくなって震えが止まらなくなったりもして。一回そういうことが起こると、元に戻りにくくなってしまう。その夏はずっと具合が悪かったですね。昔みたいに、とは言わないから、せめてキープしたいと思うようになって……前は素足にてろーんとワンピースとか着てたんですけど、もう絶対に足首出さないし、丹田には常にカイロを貼っておくようになりました。
C そういう体の不調を、気力でカバーできなくなってきますよね。
A・B わかる!
C 40歳になって、気力ってこんなに折れるものなんだなって思いました。気力を取り戻すには体が元気じゃないとだめだし、いいアイデアも体が元気じゃないと湧いてこない。私もAさんがおっしゃったようにあらゆるものを試しました。まだ探し中なんですが……空手もやっていたんですよ。
B わー空手ですか!
C 今までの自分とは真逆のことをやってみたらいいんじゃないか、というショック療法的なことを考えて(笑)。3年くらい続きました。今はゆるやかに、無理をせずスポーツセンターでエアロビをやっています。20代のころはいやだなと思って見ていたんですけど、今は理にかなっている、と思うようになりました。「U.S.A.」に合わせて踊っている自分を、何とも思わなくなりますし(笑)。
A それはありますよね。昔恥ずかしいと思っていたことを何とも思わなくなる。おばさん化してるのかなって思いますけど……。
「おばさん」と呼ばれることに慣れる日は来るの?
――「おばさん」と呼ばれることに関してはいかがですか。多子のかつての同級生で主婦の塔子は、パート先で「オバチャンって!」と呼ばれたり、そのことに傷ついていると同じ年齢のパート仲間に「そんな傷つくようなことじゃないと思うんだけどナ~」と言われたりして、「ちゃんとおばさんにならなきゃって思ったの」と娘に話します。
B 私は今、甥っ子と二人暮らしをしてるので、「叔母さん」と呼ばれることに慣れていて。意味は違うんですけど、同じ音なので「おばさん」と呼ばれるハードルは低いかもしれないです。「あ、はい。おばさんですよね」って。
――確かに意味は違いますけど、叔母さんである自分をはっきり認識できていると、おばさんである自分を認識することにも自然とスライドしていくかもしれないですね。
C 私は親戚の中でも一番年が下で、常に一番若い子という扱いをされてきたんですよね。甥っ子からも「ちゃんづけ」で呼ばれるので、「叔母さん」という気持ちも「おばさん」という気持ちも薄くて……。ただこの間ですね、実家から駅まで歩いていたら幼馴染の子と会って。彼女が連れていた幼稚園生の子供が私を見て「誰のママ?」って言ったんですよ。その時はもうね、「おばちゃん、誰のママでもないよー」って言いました。
A・B 笑
C 自分で自分のことを「おばちゃん」って言った時に、おばさんであることを受け入れたというか、もう呼ばれてもいい時なんだなって思いましたね。自分から言えるかどうかに、すごくハードルがあるなと。ただ塔子さんみたいに、人から「オバチャン!」って呼ばれた時にどう思うかは……。
A 私は自分から「おばちゃんはね」って言いたくないし、人からも言われたくはなくて。ただし、「私たちおばさんになったよね」って同年代の人たちと言うことはできるんですよ。共感しあえる中で自分のことをおばさんと認めることは全然かまわないんですけど……どういうことがあると、受け入れられるようになるんですかね。
C この漫画を読んでいくうちにわかるのかなと思っています。いろんな人たちが出てくるし、すごく内面を掘り下げて描いてくださってるから……。電車の中で多子が内観するシーンがたまに出てきますよね。あれ、すごくわかるなと。真剣に考えている時というより、ああいうふとした時に自分を受け入れられる。
A 私も好きです! 自分が変わっていくことを、「脱皮」みたいなイメージで浮かべるシーンが特に好きで。
A 40年生きてくると、核の自分に近づいて行っているような気がして。自分が何が好きなのかとか何が得意なのか、何を大事にしているかとかがわかってきて、周りの目があんまり気にならなくなってくる。世間の「こうしなきゃいけない」みたいな常識からそろそろ自由になりつつあるなと。おばさん化みたいなネガティブなことなのではなくて、いい意味でもあるのかなと思います。
B・C うんうん。
若い後輩とはどう接する?
――多子には20代の後輩・三月ちゃんがいますね。
一同 三月ちゃん!
――仕事でも私生活でもかなり彼女に助けてもらっていて。コンビニでおにぎりの具まで決めてもらっていました。
B あの話、すごく好きです(笑)。そういうちょっとしたことを考えるのが面倒くさくなってくるんですよね……。
――若い後輩たちとは、実際どんな関係を築いていますか?
B 自分では気持ちはいつも新人のつもりなんですけど、周りからは超ベテラン扱いをされますよね。みんなすごくいい子で、私を気遣って立ててくれたりするのが恥ずかしくもあり嬉しくもあり……みたいな感じではあるんですが、「老害」にはならないようにしよう、とは最近よく思います。
A 知らない間に年を取ってるんですよね。嘘でしょ?って思う。23歳の後輩と仕事をしていて、普通に接したいと思うけど、普通に接していること自体がプレッシャーを与えているかもしれない、と思ったりもします。
B まさに、そういう気を遣うようになりました。
A ブレストしよう、何でも話してね、みたいなことを言っても、出た意見に対して普通に「それはありかな?」とか答えるだけで、20歳も下の後輩にとっては、すごく威圧感のある発言に聞こえていたりするかもしれない。
C 戒めを持たないとだめですよね。自分が20代の時どうだったかって考えると、決して先輩とフラットに接したいわけではなかった。ざっくばらんに意見交換をしたいわけでもなんでもないし、この人と盛り上がりたいとか、この人と友達のように仲良くなりたいとか思ってはいなかった。そこは戒めておかないとな、と思っています。飲み会の時とかも、「私ちょっと用事あるから」って多めにお金を出して早く帰る、くらいのほうが好かれるんじゃないかと思ったりします。
A それが大人の対応ってやつですよね……。でもそういう感じで若い子に接している自分を、「あれ? ちょっと媚びてる? 好かれようとしている?」とか思う時もあるんですよ。自分はそのあたり、どうありたいんだろう、と。
C それすらも気にならなくなってきたら、最終的に自分のチャームで勝負できるんでしょうね。
――そういう年上の人、いますね。年齢とか関係なく、チャーム一本で勝負している人。あれになりたい!と思いますがなかなか難しそうです。
C あの方たちは、実際はものすごく努力もしていますしね。
A それこそ若い時から年上の人とかにも遠慮せずにものを申していて、「自分」っていうものがある人なのかなあ。
C 三月ちゃんとかは、そのラインに乗ってる感じがしますよね。
B 確かに! 思ったことを、率直に言ってくれて。
――「今ちょっとうざい…ですね…」とか、ちゃんと言ってくれるのがむしろありがたいです。
A 三月ちゃんはまだ20代ですけど、今一緒に仕事している30代前半くらいの女の子たちってわりと三月ちゃんぽい子が多くて。割り切るところはすごく割り切ってるし、いろんな大人にひょうひょうと接することができている気がします。
B 頼りがいのある後輩というか、頼もしいなっていう若者は多いなと思いますね。今、仕事でもTwitterをまめに更新したり、SNSを使わないといけないことも多いですけど、デジタルネイティブの子たちはうっとうしがらずに、帰りの電車の中とかでサクサクやってくれたりするんですよね。得意なものはもう、お任せしちゃったほうがいいなって思います。任せて失敗したとしても、こっちも色々経験してきているので、ちょっとやそっとの失敗じゃ驚かないというか。何かやらかしたときのフォローは周りの大人がするんだから、やりたいようにやっていいよ、って思ったりします。
A 情熱みたいなものはあまり感じないんだけれど、生き方のバランスがすごくいい。変に自分を追い詰めていなくていいなという感じがしますね。40代の暑苦しい感じを「めんどくさいな」って思っているとは思うんですけど(笑)。
できない年上男・梅木について考える
――梅木という、仕事ができず、しかも既婚者なのに口説いてきたりもする、多子をかなり苛立たせる年上男性も出てきますね。
――Bさんは映画業界にいらっしゃるので、梅木のような人と実際接する機会もあるのでは?
B リアルにいます。というか、もっとひどいことをやらかしますからね。
C・A もっと!?
B はい(笑)。逃げるんですよね、ああいう人って。「ああ、現場がタイトになってきた」と思っていると、もういなくなっている(笑)。本当は自分が仕切らなきゃいけない立場なのに!
A 梅木さんは50歳くらいなんですかね。でも同世代の男の人でも、既に梅木予備軍的な人っていますよね。そういう人と一緒に仕事をした時の負荷! でもそこで「もうあいつはダメだ、こっちはこっちでやろう」って見切りをつけてガツッとやるのが40代の女の人たちな気がして。多子みたいに、冷や汗を流して、電車にもまれて、死にそうになりながら現場に行く。
B やっぱり女の人のほうがいろいろなことに気が付いちゃうんですよね。
A それは絶対ありますよね。
C 梅木には、自分なりのプライドの立て直し方があって。やっぱり、自分のいないところで40代と20代の女子に現場をうまく回された……っていうのはプライドが傷ついたとは思うんです。で、多子に高い寿司を奢って、俺はお前を女として見てやってるんだぞ、みたいなところでプライドを立て直している。
――寿司の後、バーに行って、もっともらしいことを言いつつ「きれいだね指」と多子の手を握りますね。一同 ギャー!!
A そもそもこの貴重な時間、お前と一緒にいたくないよ!っていう話なんですよね。
C ほんとそう。食事券だけ置いていって、みたいな。
B 迷惑かけた若い子たちと私で、一緒にいってきますから、と。
A・C そうそう!
――たぶん20代の子からしたら、40代になったらもう変に口説かれたりとかもないんでしょう?と思われてる気がするんですけど、いつまでたってもそういう目にあったりもするんだよね、ということがちゃんと描かれているのもすごくいいですよね。
B 40歳前後ぐらいから、びっくりするくらい不倫のお誘いが増えますよね。この年代で、独身でいると結婚願望もないんだろうと勝手に思われて。「不倫相手としてちょうどいい」と誤解されているんですよ。20代に行くにはハードル高いけど、40代の独身女性ならいいかな、みたいな。
A 同世代からも不倫のお誘いってありますか?
B 圧倒的に上からですね。ちょっと奥さんとうまくいかなくなった……ぐらいの年代の人たち。こっちは仕事の延長で会って、飲んで愚痴を聞いてるつもりだったのに、なんだよ、そういうつもりだったのかよ!と。
C 梅木に手なんか握られたら、帰り道で死にたくなりますね。
B その場で吐く自信がある(笑)。
C 多子が会社で、三月ちゃんにすべてを報告するじゃないですか。三月ちゃんにも「マジスか梅木 こっわ」って言ってもらって終わりにしている。あれは偉いなと思って。梅木みたいな人は、公開処刑するしかない(笑)。「人としては悪い人じゃないんだよ」的な、ぎりぎり嫌な奴じゃないみたいな感じで接してくるのが本当にうまいなと思っていて。「嫌い」って言ったら、こっちが悪い人みたいに見えちゃう。
A あとビジュアルもキモくないじゃないですか。そこも絶妙ですよね。
C そういう描き方が、やっぱり雁さんはうまいなあと思います。
つづく。後編は6月14日(金)公開!
* * *
待望の第1巻は6月13日発売!
- あした死ぬには、 1
-
著者:雁須磨子
価格:1,200円+税
発売日:2019.6.13 歳をとるのは怖いですか? 切実に生きる女子たちの心に寄り添い、そっと背中を押してくれる本。
★三浦しをん、絶賛!!
「『こういう感情や経験ってあるなあ』とものすごく共感できる、
老若男女におすすめの傑作です!
四十代女性が直面する体調の変化や人間関係のあれこれに、
笑ったり涙したりしつつ うなずきすぎて、
私は首が太くなりました……!」- Amazonで購入 本書詳細はこちら
Ohta Web Comicで好評連載中!
1