クイック・ジャパン vol.104 のコンテンツ
104号紹介「藤田貴大」
2012.10.02 | 2012.10.04 updated
彼女は基礎だけになった家のなかに。足を踏み入れて───────
ぼくはうしろから。眺めていることしかできなかった。空だけが。やけに広くて。殺風景だった。
ゆっくりとした調子で。瓦礫をきしきしとさせながら───────
これはちょうど。一年とかまえの。それくらいまえの。もう薄れつつある。ある土地での風景だ。
がんばれとか、なんだとか。耳が痛くなるほど聞いて。ほとほと疲れました一年、とかでしたね。
去年というのは、そういう年。だったのかもしれないけれど。さすがに言われすぎた。がんばれ。
がんばれと。もう生きているだけで、超がんばってる、っつーの。これ以上なにをがんばるのよ。
そんなことを悶々と。でもぼくはこの一年。直接的にはまるっきり。無傷のまま。過ごしてきた。
というわけで。あれから一年半経った、いま。である───────
2012年、岸田國士戯曲賞を受賞した、劇団「マームとジプシー」主宰、藤田貴大による短編小説がスタート。