クイック・ジャパンvol.117 のコンテンツ
117号紹介「きのこ帝国」
2014.12.02 | 2015.3.24 updated
特集
きのこ帝国
「東京」で生きていく
彼女が目指した東京と、
彼女が見てきた風景
きのこ帝国という名前を最初に認識したのはデビューアルバム『渦になる』だった。2012年の5月リリースだから、2年半前のことだ。音楽雑誌から、短いレビューを依頼されて、こんなことを書いた。
「[前略]轟音と静謐を行き来するサウンドスケープは、なるほどシューゲイザーを通過してきたバンドのそれだが、佐藤(vo、g)の中性的な声と、感情の奥底にある『痛み』や『許し』をテーマとした歌詞は、密接に絡み合うことで、ヒリヒリとしたモノクロームな空間を立ち上げる。一度掴まれたが最後、エモーショナルな渦に巻き込まれ、出口を見失う。それでいい。いつまでも身をゆだねていたい」
それから半年ほどして、きのこ帝国はファーストアルバム『eureka』をリリース。一足早く公開された豊田利晃監督によるアルバム収録曲「ユーリカ」のMVを見て、『渦になる』の世界がより研ぎ澄まれ、深く追求されているのを勝手に感じとっていた。
しかし今年10月に発表されたセカンドアルバム『フェイクワールドワンダーランド』を聴いて、衝撃を受けた。一曲目「東京」の出音からしてちがうのだ。力強いギターロックだ。突然、世界が色づいたような高揚感と、半径5メートルの生活を刻むリズム。以前は幽玄とさえ思えた佐藤のヴォーカルには温もりすら感じられる。
日々あなたの帰りを待つ
ただそれだけでいいと思えた
赤から青に変わる頃に
あなたに出逢えた
この街の名は、東京
(「東京」)
過去は引き出しにしまって、いまはこの街の生活を楽しもう。「東京」のコンセプトは、佐藤の一つ年下の世界的歌姫テイラー・スウィフトがやはり同じ月にリリースした新譜の一曲目「Welcome to New York」と響き合っているように思えた。共時性を指摘したいだけじゃない。『フェイクワールドワンダーランド』はそれぐらいのスケール感とポピュラリティを秘めたアルバムだと思ったのだ。
きのこ帝国のリリース音源を改めて聴き直すと、昨年末に出たEP『ロンググッドバイ』の時点で、すでにこのポップさの萌芽を見ることができる。もっと言えば、『渦になる』の初めから、芯にある佐藤の歌心は変わっていないことにも気づかされた。表現するサウンドの幅が広がっただけなのだ。しかしここまでのメロディメイカーぶりは見抜けなかった。
佐藤に何があったのか。いや、それ以前に佐藤とはどんな人なのだろうか。まずは彼女が音楽と出会った頃のことから聞いてみようと思う。
◆佐藤 インタビュー 彼女が目指した東京と、彼女が見てきた風景
◆メンバー座談会 東京で出会った4人が、ある夜、絆を確かめ合った──