web限定特別コラム：アニメ『銀魂』 | クイック・ジャパン - QuickJapan

アニメ『銀魂』が追い求めるロマン
あるいは「終わる終わる詐欺」について

文＝吉田大助
TEXT by YOSHIDA,Daisuke

　2006年４月よりテレビ東京系で放送中のアニメ『銀魂』は、原作の魅力を再現しつつ、「なんでもアリ」の『銀魂』イズムを徹底追求している。漫画では実現できない動き、声、色、音楽、効果音、時間経過、ＯＰ＆ＥＤ、「１話30分のアニメ番組であること」などなどアニメならではの要素を効果的に演出し、制作会社が『ガンダム』のサンライズゆえにロボットネタ＆アニパロを大胆上乗せ。放送時間帯がゴールデンタイムから毎週木曜18時～18時30分へと「左遷」（←番組内の表現）され、おもに下ネタ絡みで苦情が殺到しながらも、抜群のクオリティを実現し続けてきた。
　その魅力を証明するサンプルとして、最高傑作の呼び声も高い「モンキーハンター編」第121話～123話を見ていこう。原作は、コミックス第二十二巻百八十九訓～百九十二訓。
　第121話は、学園ドラマの教師に扮した銀さんが質問に答えるミニコーナー「おしえて!!　銀八先生」からスタート。このキャラは、原作のコミックス二巻の「番外編」に初登場し、のちに同名ノベライズが刊行された『３年Ｚ組銀八先生』が元ネタだ。さて「銀魂は何がしたいのですか？　やりたいことがよくわかりません。このアニメのゴールが見当たりません」というハガキを銀さんが読み上げて一言、「はいずばりお答えしましょう。俺も分かりません」。そして「目標もなくダラダラ続けるもんじゃね～よ、まったく。いっそどっかで"侍王になる！"とか言っときゃあ良かったかなあ。あ、そうしよう」。突然『ONE PIECE』のルフィーをコスプレし、「そんなわけで、（中略）アニメ銀魂のゴールは"侍王になる！"です」。実はこのくだり、原作コミックスのおまけページ「空知の読者と触れ合う質問コーナー」第十五巻収録41問目での、質疑応答が元ネタだ。アニメ『銀魂』は、本編だけでなく、おまけページのすみずみまでアニメ化してしまう。
　通常ＯＰの後、毛筆で書かれた第121話の題字「素人はプラスとマイナスだけで十分だ」が出現し、本編スタート。万事屋のテレビでニュースを見る銀さんと新八が、宇宙人によるキャトルミューティレーション（誘拐）を話題にしている。他人事のウワサ話をしてたはずが、新八は右手の人差し指がプラスドライバーになっていた！　まさか、と思い出す昨晩の出来事。新八はＵＦＯにさらわれ、ＰＳＰを修理したがっている宇宙人によって、指ドライバーへと人体改造されていたのだ。ここでポイント。オタクな宇宙人の会話中、「ＰＳＰ」という固有名詞を伏せ字にするため、最後の「Ｐ」にピー音が入ってます。「ＰＳピー」って、隠せてない！　その後も、神楽は全身（!?）マイナスドライバーに、そして銀さんの「アナログスティック」は、使い所が分からないボックスドライバーへと人体改造確定。万事屋の３人は体を元に戻すため、宇宙人が遊ぶと言っていたオンライン版「モンハン」（モンキーハンター）にトライする。
　第122話「想像力は中２で培われる」は、番組スポンサーを読み上げるＯＰの提供画面で「『モンスター』じゃないからね！　『モンキー』だから大丈夫!!なはず」と告げる、泣けるテロップ出しからスタート。ゲーム内の会話はウインドウに書き文字形式で表示され（ウインドウが開く時にヒュポッという効果音アリ）、声優陣は「カッコワライ（笑）」まで律儀に声に出す。ネット内のキャラと、それを操るプレイヤーの容姿が異なる場合、声優も変えるという徹底っぷりだ。第
　123話「いつも心に一本のドライバー」の冒頭では、『銀魂』で長谷川泰三を演じる立木文彦が本家ナレーションをやっていたのをいいことに、『モンスターハンター３』のパロディＣＭを披露。その後、切ないフォークソングにのせてさっちゃんが秋葉原でＴバック開脚するアニメオリジナルのワンシーンを挟んだ後、荘厳なファンファーレにのせて銀さんが回る回る回る（←説明不足！）。最後は、コミックス二六巻収録の一ページ漫画を原作に持つ、マダオのショートアニメが流れてシリーズ終了。小ネタ多すぎ。視聴覚くすぐられまくり。コミックスを読みながら見ても面白い。ぜひ見てほしい!!
　ところで、『週刊少年ジャンプ』で連載中の人気漫画を原作に、テレビアニメを作る、その大事業に関わるアニメ・クリエイター達が今も昔も格闘し続けてきた最難問はこれだ。「原作に話が追いついちゃったらどうする？」。漫画の１話（20ページ前後）よりも、アニメの１話（20数分）の方が、圧倒的に情報量が入ってしまう。原作から数年遅れでアニメが始まっても、続けていくうちにどんどん最新の１話に近付いてしまう......。
　アニメ『銀魂』は、原作の細部を注目＆拡大し、隅々までネタに利用し、時にオリジナル要素を持ち込むことで、細かく細かく尺を稼ぎ、最新話（≒最終話）から遠ざかろうと奮闘する。驚愕すべきは、この追いかけっこ感をもアニメに取り込み、あっぷあっぷ感を笑いに変えていくことだ。これまでの放送時間中にいったい何度、キャラクターの口から「原作ストック」という言葉が吐き出されたことか。「終わる」「打ち切り」という言葉が！　人気と好感度の「テコ入れ」をキャラクター達が語り合う第50話、第50話のパロディ（！）でもある総集編の第75話もすさまじかったが、圧巻なのはアニメ史上に残る伝説の第150話だ。これぞ必見、アニメ『銀魂』名物「終わる終わる詐欺」!!　「終わり」のハラハラ感さえ、視聴者にとっての喜びに変える。
　アニメは現在、放送4年目＝第4シーズンを折り返し後半戦に突入している。今後の展開を占う９月24日放送の第176話のタイトルは「カウントダウン開始」。ここ数回、「迂回ルート」と称したオリジナル短編が続いていたし、直前の第175話「幾つになっても歯医者は嫌」は、コミックス最新三〇巻の2話で作られていた。いよいよ原作ストックは20話を切った......。また例の「終わる終わる詐欺」!?　いずれにせよ、今こそアニメ『銀魂』に翻弄される最高のチャンスだ。
　原作を読んでいない人でも楽しめるし、原作を読んでいる人はより楽しめる。テレビで見て、ＤＶＤで見て、何度見ても繰り返し楽しめる。その面白さを実現しながら、目の前の「この１週」に全てを賭ける！　アニメ『銀魂』には、原作から受け継いだ『銀魂』イズムが隅々まで息づいている。と同時に、原作さえ乗り越えてしまいたいという野心が光る。ライバルは、他のアニメ作品ではない。他でもない、原作の『銀魂』そのものなのだ。
　無茶や無謀、無意味や不可能を知りながらも、それでも戦おうとする心。人はそれを、ロマンと呼ぶ。ここに最高のロマンがある!!

 「モンハン編」が入っているDVDは『銀魂 シーズン其ノ参 06』。
第４シーズンのＤＶＤ第1弾は、10月28日に発売決定（第151話～第154話＋αを収録）。

絶賛発売中の『銀魂 ジャンプアニメツアー2008&2005』は、テレビアニメ版のプロトタイプとして製作され、ジャンプアニメツアー2005で上映された幻の一編『何事も最初が肝心なので多少背伸びするくらいが丁度良い』を収録（原作はテレビアニメ版では製作されなかった第十七訓）。同時収録は、ジャンプアニメツアー2008で上映された『白夜叉降誕』。国を護るために刀を取った攘夷戦争時代、「白夜叉」と呼ばれ戦場を血しぶきに染めた坂田銀時の過去を、スタイリッシュに描き出す......はずがない！　やんちゃ度ＭＡＸ。必見っ!!