クイック・ジャパン編集部ブログ
太田出版発行の雑誌「クイック・ジャパン」の最新情報や編集部の様子をお伝えしていきます。
※表紙以外の画像は無断転載・使用を禁止させていただきます
←祝! | ブログトップ | QuickJapan77号Perfume→
QuickJapan77号Perfume特集おまけ座談会 2
2008.4.19
クイック・ジャパン77号Perfume特集おまけ座談会
夢はまだまだ終わらない!
――Let’s talk about Perfume&GAME! 2
ちょっとしたQuickJapanの裏話を交え、取材者の立場で「Perfume現象」の前夜を語り合った第一章。今回の第二章では現在発売中のQuickJapan77号を元に、現象の中心に存在するPerfumeの実像についてライターのさやわか氏&吉田大助氏、編集長の藤井直樹があれこれ考えます。
◆第二章 QuickJapan77号で目指したこと
■お互いの境界線がふっと消える瞬間がある
さやわか 取材させてもらった立場から言えば、QJの3人別々のインタビューはエキサイティングで面白かったですよ。普通にやると「3人のキャラクターをピックアップしてみましょう」的なもので終わっちゃうんですけど、QJはそこにオチなかったので。
吉田 ライターを3人にしたのが良かったんじゃないですか?
藤井 それは確かにそうですね。Perfumeの3人にそれぞれ別のライターがインタビューするというのは、当初から絶対にやろうと思ってました。
さやわか 各メンバーがそれぞれ何を話しているのか分からないよう、部屋を隔離した同時進行のインタビューにこだわってたし(笑)。
藤井 そこはね、やっぱ時間をずらすと3人の間で「インタビュー、どうだった?」って話になるじゃないですか。3人とも頭がいいから、予備知識があると「じゃあ私はこういう話をしたほうがいいかな」って準備しちゃうだろうし、それだと取材はスムーズなんだけど面白くないでしょ。
さやわか 実際、ライターも松本亀吉さんがのっちで、僕があ~ちゃんで、吉田さんがかしゆかっていう組み合わせがすごくハマってると思います。ゲラが上がってきた時に初めて他の2人の記事を読んだんですけど、Perfumeのメンバー3人はもちろん、ライターの色が出ていて面白いなと。吉田さんがかしゆかの記事でガールっぽい部分をどんどん入れて、「きゃー! ヤダぁ! そんなの初めて言われました」とか書いてあるのは、たぶん自分だったら絶対にやらないだろうし。
藤井 元のインタビューはもっとすごいですからね。そりゃもうキャッキャして(笑)。
さやわか 吉田さんは最初からかしゆかを取材したかったんですか?
吉田 いや、あのー、女の子っぽい話をしたかったんですよ、僕が(笑)。
さやわか はいはい(笑)。でも一番女の子っぽいと言えば女の子っぽいですよね。まあ男性から見てって話になっちゃうんですけど。
吉田 一番ふにゃーっとしてますよね。かしゆかに会ってみて「10代の女の子ってふにゃーとしてるんだな」って思ったなぁ。3人ともそうなんですけどね。撮影の合間に3人で寄りかかってる時の感じとか、親亀子亀みたいにドサーとのしかかってソファでじゃれてる感じとか、まるで3人で1個の生命体みたいだった(笑)。あと、僕は今回が初めての取材だったんですけど、ちまたでよく言われるかしゆかの小悪魔性を肌身で感じましたよ。ホントにあっけらかんと男心をくすぐりますよ。
さやわか そういえば以前の取材のとき、僕はかしゆかとケータイの機種が一緒だったんですけど、わざわざ「あー、ケータイ一緒ですね~」って言ってくれたことがありましたね。僕にそんなこと言っても何のトクにもならないのに。でも、ちょっと嬉しいじゃないですか(笑)。
吉田 嬉しいですよ! こっちをよく観察してますよね。74号のさやわかさんや亀吉さんの記事を、3人とも読んでるって言っていたし。いわゆる営業トークじゃなくて、読んだから読んだって、ただ普通の話をしているだけなんだけど、なんていうか、話しているとお互いの境界線がふっと消える瞬間がある。取材する僕らが彼女たちを一方的に観るんじゃなくて、観られている感覚もあるというか。コミュニケーションしているって感触が楽しかったです。
藤井 「観察してる」っていうのはPerfumeを考えるうえで重要なキーワードかもしれないですね。特にかしゆかは周りをすごい観察してますよ。本人はあまり自覚がなくて、たぶん自然にそうなんだと思いますけど。
吉田 野性ですよ。野性の小悪魔ですよ。
さやわか 野性の小悪魔(笑)。
■3人には「Perfume」という軸がちゃんと確立してる
吉田 77号でかしゆかインタビューをする時に考えていたことのひとつは、Perfumeの曲だけじゃなく3人の「楽しそうな感じ」を人々は楽しんでいるとして、でもその部分を「100%自然で天然」と捉えちゃうのは半信半疑だぞと。そういう言い方はむしろ彼女たちのクリエイティビティを甘く見てるんじゃないか、と思ってたんです。これは中田さんがいろんなインタビューとかで言ってることでもあるんですけど、自分が楽しいっていうことだけじゃなくて、自分の作ったものを聴いた周りの人が楽しそうにしていることも楽しいって。Perfumeも同じなんですよね。記事にもちゃんと記録したんですが、かしゆかは「それが前提」って言葉を使ってました。「客観視」とも言っていた。自分の楽しみが100%じゃなくて、「オーディエンスの楽しい」を「自分の楽しい」に捉え返す、そうすることで自分を満たせるんだと。自分一人では不可能なんだぞと。これって突き詰めると、この世から戦争がなくなるんですよ!
さやわか 急に大きく出ましたね(笑)。
藤井 何かの勧誘みたいな話になってきましたけど(笑)。
吉田 自分が何かした事が他人の幸せになって、それが自分の幸せなんだって感じられたら、つまり自分の幸せの何割かを他人に任せることができたなら、他人を大切にせざるをえないじゃないですか。それに、自分の幸福がポシャった時にも、まだ他人がいるって思えば自殺もしないでしょう。生命のリスクヘッジですよ! 僕はそういうPerfumeの3人が自然とやっている、自分の楽しさや幸せみたいなものは外側にもちゃんと基準を置いてるっていうことを、記事で見せたかったんですよね。
藤井 僕はかしゆかの取材に同行してたんですけど、インタビュー開始20分くらいで、「自信がない」って話になったでしょ。
さやわか 「それを語り出すとダークサイドになっちゃいますよ?(笑)」ってやつですね。あのセリフはキますね~。
藤井 あれは自分をどう見せよう、とか自分たちがうまく見えるようにすることに自信がないっていうよりは、常にオーディエンスとの間に何かを求めているがゆえの発言なわけで。
吉田 そう、完結しないんですよ。自分一人の評価では。
藤井 だから言ってしまえば、自分に絶対の自信を持つ日は来ない。来ないけどそうなりたいと願っている状態をキープするのが彼女たちのクリエイティビティの根底にあるんじゃないかな。
吉田 それを、かしゆかは自然にやってるんですよ。もちろん他の2人もやってるんだけど、かしゆかはその話を始めたら本気で暗くなっちゃって(笑)。
藤井 「それはまた別の機会に」って言われましたね(笑)。
さやわか いや、かしゆかは本来そういうパーソナリティを持っていると思いますよ。でもそれってメディアにはなかなか出せない部分じゃないですか。今回のインタビューではかしゆかの深層が出てる。
吉田 さやわかさんと亀吉さんの原稿を読んでも、Perfumeの3人ってみんなそうなんですよ。あ~ちゃんも相当スゴいこと言ってる。Perfumeとして良ければいい、自分一人の満足だとか自己実現なんてどうだっていい、みたいな。
さやわか スゴいですよね。あれでも、ちょっとソフトな感じに読めるように表現を丸くしてるんですよ(笑)。「私、新録の曲はぜんっぜん歌ってないんですよね~」とかって、その場で聞くとあ~ちゃんがいつも言ってるあの言い方だなって思うんだけど、文字にするときつい感じになるな~とか。
吉田 そこで主体性なり個人の自己実現なりを追求しちゃうと変な空気になって、ぎすぎすした仲間割れみたいなことになっちゃうんですけど、3人には「Perfume」という軸がちゃんと確立してるんですよ。
さやわか 3人ともPerfumeのフロントマンとしてやってる気持ちはあるんだろうけど、中田さんや関さんとか全スタッフを含めた「Perfumeチーム」でやってるって意識の方が強いのかなと。今回の記事で「3人はPerfumeのメンバーでありアイコンである」って書いたんですけど、自分たちがアイコンというか偶像というか、つまりは「アイドル」として人前に出ていることは把握しつつ、でもそれはみんなで作ってるものなんだねってこともちゃんと分かってる。3人をひとりひとりの「個人」に分けて同時にインタビューしたことで、その辺が見えたかもしれません。
藤井 僕が今回の特集を3人個別のインタビューにしたかったのは、そのほうが面白いってことはもちろんだけど、3人が渾然一体となった受け取られ方では「今の状態がPerfumeのゴールだ」っていう空気が受け手側に強くなると思ったからなんですよ。Perfumeに対する世間の扱い方を見ていると、どうも“あがり”的な扱いを受けてるなあ、と。
さやわか 「3人で7年間がんばって、やっと人気が出て、新しいアルバムが発売されて、場合によっては紅白とか武道館とか出て、ああ良かったねー」というムードですね。「Perfume物語・完」っていう。
藤井 もちろん3人は「Perfume」という揺るがない軸を共有してるんですが、それを踏まえた半歩先にある世界をリスナーが共有するためには、「じゃあ3人はPerfumeという軸とどう向き合っているのか?」という視点や想像力が、これから必要になってくるんじゃないかなって。
■自分の好きなものを好きだって言っていて欲しい
吉田 リスナーは夢を託したがるわりに、その夢を終わらせたがるところがありますから。僕自身もそうなりがちなのでよく分かる。なんか、今や「Perfumeがいいのは当たり前じゃん?」っていう空気が出来つつありません?
さやわか それも「かっこいい/悪い」という主観的な評価が各人の問題として退けられているからこそだと思うんですけど、社会的な価値承認というか絶対評価が求められがちなんですよね。「○○を聴いてる奴はオタク」「○○を分からない人は馬鹿」みたいな。
藤井 これはQJを含めた雑誌やテレビなどのメディアも反省しなきゃいけないことで、自分がどれだけ新しくて珍しい情報を知ってるかというアンテナの感度ばかり競ってますからね。そういうアンテナを社会が求めているのは事実だけど、本当はもっと掘り下げて考えなきゃいけないのに、速報性とか希少性とか「情報」を基準にした価値観ばかりが横行して、実体に関係なく誰かが手を付けると「もうわかった」とか「古い」ってことで捨てられてしまう。で、誰かがどこかでちょこっと言ったり書いたりした感想が無限にコピーされて、いつの間にか自分の考えや社会の評価になってる。これはちょっとマズイよなあって思いますよ。
吉田 メディアの受け手も反省しなきゃいけないですね。
藤井 Perfumeにしても、3人がよく語っている、武道館でライブやりたいとか紅白出たいとかって、世間にすれば「Perfume現象のゴール」ってイメージじゃないですか。もし武道館ライブや紅白出場が実現したら、おそらく「おめでとう! おつかれさま!」でしょ。こんな状況にあって、どうすればもっとPerfumeの先を想像させられるのか。この人たちはまだまだ先へ行くっていうことを、なんとか読者に伝えたかった。だから3人が何を考えてここにいるかをそれぞれの「声」として浮かび上がらせ、そこから何を感じるかは読者にゆだねてみよう、と。今回のアルバム制作で、それぞれが「Perfumeの中の自分/自分の中のPerfume」というものとこれまで以上に向き合ったはずだから。
さやわか しかし正直、今回の特集は「Perfumeの先」をやりましょうという話を聞いた時は不安でした。まだ音も聴いてなかったんで、本当に「この先がある」というムードを出せるのかなって。全然根拠がないのに「これが新しいPerfumeなんだ、今までとは違うんだ」みたいなことを書くことになるならイヤだなと思っていた。だから『GAME』のサンプル盤を最初に聴くときは、本当に、このアルバムに3人の「次」がかかっているんだと思って手が震えましたね。CDを鳴らす瞬間にここまでドキドキしたのは10年ぶりくらいです(笑)。でも、聴いたらホントに……もう。聴きながら原稿書いてたんですけど、「Perfumeはあなたが思っているより全然すごいんだよ、まだまだ先があるよ」って、歌詞を読めばこれは間違いなくそう言っているなって思えるほどに、ストレートにPerfumeの未来を提示してくれた内容なんですよね。
吉田 昔からPerfumeを好きだった人は、今すごく売れちゃったことがある種のダメージになってて、気持ちが離れる的な現象ももう出て来てるのかな。
さやわか そういう人もいますよね。「Perfumeは売れて変わっちゃったよ」みたいな。
吉田 でもそれは勿体ないじゃないですか。
さやわか 面白いのは、それをのっちがインタビューで言ってるんですよ。自分が大事に思っていたものにファンがついちゃうのが寂しいって気持ちは分かりますって。のっちもマイナーな音楽が好きだから分かるって。
吉田 そういうのをちゃんと言っちゃうのは、すごく素敵だな。それを分かる人がやってるんだよっていう。
さやわか だけど、本当は「売れたからもういらない」みたいなことを言うべきじゃないんです。本当に好きだったら、それだけでいいじゃないですか。例えば「QJで特集したから、なんかサブカルっぽいんだよね」とか言う人がいるんですよ。かと思えば「こんなアイドルみたいなものに全肯定の言葉を書くのはどうなの? こういう言葉はもっとトップスターに書くべきなんじゃないか」って言う人もいるんですよ。だけど、好きなんだったらやるべきなんです。トップスターというのは最初から「トップ」という価値が付いているわけじゃないし、「アイドル」という札が付いているからとか、どの雑誌に載ったからこうなんだというのは他人の判断に従ってるだけで、自分で何かを判断しているのとは違う。だから、好きなんだったらそれでいいじゃんってとこに行って欲しいんですけどね。Perfumeが認められなくても、自分の好きなものを好きだって言っていて欲しいですよ。
吉田 文脈だけで音楽を聴くっていうか、何に対しても文脈で否定したり肯定して、自分の感情と向き合わない人って意外に多い。で、メディアは文脈に加担してしまいがち、というか。そうじゃなくて、メディアの末端にいる身としては、個人の「好き」を歪めるいろんな力学を、なんとかして1個ずつ剥がしていきたいですよね。
■Perfumeは騙す時は「騙す」って言っちゃう
さやわか 彼女たちが「小さな目標を積み重ねてやっている」って言ってるのは、ほんとにそうなんですよね。僕も「武道館とか言いながら、ホントは違うこと思ってるんじゃないの?」っていういじわるな視点でインタビューを始めたんですけど、いい意味で見事に予想が外れたっていうか、武道館にしても自分たちの活動においてどうこうじゃなく、普通に「やりたいな」ってだけなんですよ。それで3人がいつも異口同音に言ってる事は、ホントにホントなんだって分かった。その裏のなさが裏だった、みたいなところがあって。
藤井 「ホントにホント」ね。中田ヤスタカっぽいなあ(笑)。
さやわか 「なんでみんな裏読みするの?」みたいなことがあって。
吉田 裏読みに慣れすぎましたね。文脈読みに慣れ過ぎちゃった。
さやわか でも今の時代はそれが楽しくて聴く人もいるから、必ずしも全面的には否定できないのが難しいんですけどね。面白いのは、Perfumeの場合は本人たちもそれを分かってるんですよ。「いろんな人がいろんなことを言って、ファンの人たちは私たちのことをあんな性格こんな性格って言うかもしないけど、それはそれでアリです」みたいなことを言うので、そこが面白いなあと。あ~ちゃんのインタビューでは結構そういう話をして、わざとちょっとだけ言い方きつい感じで「自分たちを見てくれさえすればどうでもいいって感じですか?」って聞いたら、「そうじゃなくて、いろんな人がいろんなことを思うのは当然なので」って言うんですよ。それは結構、感動的なところがありましたね。
吉田 やっぱりリスナーも騙されたくはないわけですよ。騙して計算して自分の好意みたいなものを操っていることにものすごく敏感で、だから「騙された」と思うと相手に謝罪を要求する。でも、Perfumeは騙す時は「騙す」って言っちゃう。騙すというか、自分自身と、Perfumeの自分は違うんですとか、「大人の考えることって怖いね」とか(笑)。隠すよりも露わにする方向に行ってる。ウソつかれてる感じがまったくないんですよね。
さやわか ショーエンターテインメントってそういうもんでしょ? みたいなところが、わりと自然にあるんですよね。アメリカあたりのタフなエンターテイナーに割と近い。
藤井 これまでそれに近いことやってきましたからね。アメリカでプロモーションする時に全国各地をまわるみたいな感じ。ああいう活動って、いまでも演歌やお笑いの世界とかでは当たり前にやっているんだけど、日本のミュージックシーンは「みっともない」って感じで嫌うじゃないですか。それよりもいきなりドームでデビューっていうシンデレラ・ストーリーか、もしくは地方をまわっても「全国のライブハウスを熱狂させた」みたいな伝説を好む。でも海外を見ればわかるように、一流のアーティストやエンターテイナーって最初はみんな地方をガンガンまわって、それこそお客さんがほとんどいないとか、下手したら言葉が通じないとかって経験を積んで、音楽的にも人間的にも「プロ」として鍛えられるわけですよ。もちろんPerfumeの活動はそれを意図してたわけじゃないんだけど、結果としてものすごくプロ意識が高くなったと思いますね。
吉田 変わった変わらないで言うと、さやわかさんは74号から数えて取材を3回やられてますが、3人の変化は感じました?
さやわか 人間性とか人格はまったく変わってないですね。今回の記事でアートディレクターの関さんもおっしゃってますけど。関さんのところに行った時は、僕はまだ3人のインタビューをしていなかったので、主に「最近忙しいし、3人は変わったんじゃないですか?」ってニュアンスで聞いたんですけど、関さんは「変わってないですよ」って言われて。実際、自分で会ってみると本当に変わっていない。
藤井 ただ、3人にとってのテクノミュージックに対する言葉っていうのは、今回の原稿を読んで違ってきたなと思いませんか? 74号の時は「最初は『テクノってなに?』って思ってたけど最近は好きです」って言い方してましたけど、今の3人の、特に中田さんが作るサウンドへの「芯食ってる」感は驚きますよ。サウンドと一体になれる感覚が3人にあるんだろうなってことは、今回の原稿を読んで「変化」として感じましたね。
さやわか サウンドに話題が及んだところで、そろそろ『GAME』の話にいきますか(笑)。